29.言霊ブレスレット

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 改めてそんなことを指摘されたことがなくて、ただただ村雨の真剣な眼差しを見つめ返すことしか出来なかった。 「ところで今回の件で自分、あの桃塚っちゅう警官になんぼもろたん?」 「なんぼ?」 「せや。報酬や」 「報酬!? そんなもんもらってないよ」  そう言った途端、村雨は「そこ!!」と言って俺の顔を指差した。 「あのなぁ、自分の力は凄いんやで? その力を無料(タダ)で使てるてどういうことや! 勿体な!! 正当な報酬(ギャラ)を受け取るべきやで」  何故か自分が詐欺にでも遭ったかのように、村雨は怒りを露わにする。 「わいはなぁ、忌一君。君に出会うまで、霊能力者なんて1ミリも信じて無かったんや。せやけど彼らが困とる人を救う点においては、一目置いとった。ところで忌一君は、“プラシーボ効果”て知っとるか?」 「それって確か……ただのビタミン剤を薬だと思い込ませて飲ませたら、効果が出るとかいう?」 「せや。要は、思い込みの力や。つまり実際に能力が無くても、霊能力者やと思い込ませれば効果があるんと違うかと思うててん。せやから、こんなわいでもそれらしい恰好して霊能力者を名乗っとったんや」  だがそんな中、ついに本当に能力のある人間……俺に出会ってしまったと村雨は言う。取り調べ室で話した時に、亡くなった本人しか知り得ない情報を知っていたことで、俺の能力が本物だと信じざるを得なくなったのだと。 「ちなみにわいの良いところはどこやと思う? 嘘でも困とる人のために動いたところや。そのおかげで救われた依頼者は何人かおるしな。その証拠に、依頼人から感謝のメールをいくつかもろてる」  そう言って村雨は、以前依頼者から送られた感謝のメールをスマホに表示し、こちらに見えるようテーブル上で滑らせた。 「悪いところは言わずもがな。わいのやってることはプラシーボ効果で、実際に能力はない。そこでや。そんなわいがホンマに力のある忌一君と組んだら、どうなると思う?」 (うっ……)  村雨の見事なプレゼンに、反論しようと思っていた言葉が何も浮かばなかった。それどころか、息を吸うのも忘れて体が硬直している気さえする。 「わいのプラシーボ効果が、全くの嘘ではなくなるわけや。ほなら今回わいの力で救えなかった依頼者も、忌一君の力で救えると思うねん!」 「で、でも! 俺は皆に見えないものが視えたり話せるっていうだけで、術らしいものは何一つ使えないよ? 必ずしも困ってる人を救えるなんて、何一つ保証出来ないんだから」
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