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湯けむりランニングマン
駐車場の広いスーパーへ到着すると、買い出しを始めた。
「パックのごはんとか缶詰とか保存できるものをたくさん買っておけよ」
先輩は瑠美さんが書いたメモを見ながら色々とカゴに放り込んでいる。
「大丈夫ですよ、あの別荘は町営のバスも出てるんで」
「えっ、あんな狭い道にバスが通ってるのか?」
「別荘よりさらに上に集落があるらしくて、1日数本のバスの便があるんです」
「それなら少し安心だ、正直言って免許も車もないお前がどうやって暮らしていくのか心配だったんだよ」
「別荘を買うにあたり一通り調べましたから」
「そうか・・・そうだよな・・・それでもやっぱり心配だ、おまえ車の免許取った方がいいぞ」
「大丈夫ですよ、バスで駅まで来てそれから電車を乗り継けば東京まで行けるんですから」
「相当な時間がかかりそうだな」
「まあそうですけど」
「それに病気とか心配だ、瑠美の書いたメモにも赤で印がつけてあるけど風邪薬とか保存食のお粥とか買っとけよ、
あんな山奥で1人風邪になったら大変だぞ」
「分かりました、じゃあ薬局にも寄ってください」
「了解」
買い物を済ませた二人は日帰り温泉へとやってきた。広い湯船で仁は思い出したように鼻歌を歌いだした。
「フウ・・・フウ・・・ビッビッビッビッ・・・」
「先輩、もしかしてエグザイルですか?」
「ん・・・何・・・ああ今歌ってたやつか?」
「そうですよ、今日ずっと鼻歌で歌ってたやつですよ」
「そう、エグザイルだよ、俺ランニングマン踊れるぜ、やって見せようか?」
「全裸のランニングマンは勘弁してください!」
「だよな、ハハハ」
「やっとスッキリしました、ずっと何を歌ってるのか分からなかったので」
「えっ、俺そんなに音痴か?」
「いや、あのう鼻歌なんで・・・」
「だよな、おれ露天風呂に行くけど」
「先輩どうぞ、僕はここでいいので」
「じゃあな」元気に露天風呂へと出て行った。
先輩の仁とは大学のPC研究会からの付き合いだ。面倒見の良い仁には随分可愛がられた。
新は中学のころからパソコンを自作したり、プログラムを作ったりしていたのでわりとコンピュータ関係には優秀だった。
仁と二人で作った企業の経営診断のプログラムが、IT関係のベンチャー企業に評価を受け、仁はその会社に入った。
新も卒業すると、仁に引っ張られるように同じ会社に入った。
二人は会社の仕事でもパートナーのようになっていた。
社交的な仁は女性にも人気があり、よく飲み歩いていた。しかし新は会社と自宅の往復だけの日々だ。心配した仁はコンパへ新を連れ出した、しかし何の成果も上がらなかった。
ある女の子に「新さん暗い」そう指摘され撃沈した。それ以来仁が誘っても行くことは無くなった。
そんなある日、ネットの広告で別荘のことを知った。訳アリ物件で超格安だ。
理由は、唯一の身内が足が不自由なため荷物が片付けられず放置されていることだった。
購入者が自分で荷物を整理しなければならないのが、その訳アリの理由だ。
掲載されている内部の写真ではそれほど荷物は多くなく、わりと片付いているように見えた。
販売価格は150万円、プログラマーだったので給料はそこそこ良かった、購入してもまだ貯えもそれなりに残りそうだ。
仁と相談して契約社員として自宅で働くことにして、田舎で人付き合いも少なくのんびり働くことにしたのだ。
契約書を郵送してお金を振り込むと、鍵が封筒で送られてきた。あまりにも手抜きな感じだが、安いせいだろうと納得する事にした。
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