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リビングでプレゼンテーション
「あのう、新さんはなぜこの別荘を買って山里で暮らそうと思ったんですか?」
新はムクッと顔を上げた。
「それを説明するには相当時間がかかるんですけど」
「夜は長いのでよかったら聞かせてください」両ひじをテーブルについて、両手の上に顔をちょこんと乗せ興味深げにのぞきこんだ。
新はその可愛いしぐさにごくんと息をのんだ。
「僕は大学でコンピュータを勉強していて、先輩と作ったプログラムが評価されて今の会社に入りました。でも人付き合いが苦手でいつも1人だったんです。先輩が心配してコンパとか連れていかれました。そうしたら綺麗な女の人から「暗いのがうつるから離れて」そう言われました。ショックでした。そんな時にこの別荘が売りに出ていることを知って1人で暮らしたいと思ったんです」少し寂しい顔をした。
「でも今はネットでどこにいても仕事ができる時代なので、契約社員にしてもらってここにいます」
綾乃は口をへの字にして怒っているようだった。
「新さん、そんなことをいう人とは知り合いにならなくてよかったです、私はそうは思いません。まだあったばかりですけど新さんは優しくて誠実な人だと思います、それにとても素敵です。こんな訳の分からない私にさえこんなに優しく接してくれるいい人なのに」
「ありがとう慰めてくれて、でも僕は自分の市場価値を分かっているので、彼女は僕とかかわらない方が賢明だと思います」
「そんなことないです、私は新さんの味方になりたい」少しだけ寂しそうな顔をした。
綾乃は遠くを見るような眼をした。
「母が亡くなる前に私の手を取って『幸せになってね』って言いました。私は母に『絶対に幸せになるよ』って言ったんですけど、でも本当は幸せって何かすら全くわからないんです」思い出して泣きそうになっている。
新はそんな綾乃を見てなんとかしないといけないと思い頭の中をフル回転させた。
「アメリカのある大学が幸せについて何十年も研究していてその結果が発表されたんです、綾乃さんなんだと思いますか?」
「えっ、まったく想像つきません」綾乃は不思議そうに新を見た。
「その結果は良いコミニケーションだということでした。つまり信頼できる家族や友達がいる人は、病気にもなりにくく幸せと感じている人が多いそうです。よいこミニケーションを持ってない人は、経済的に成功しても幸せと感じていないようなんです。つまり僕が思うには信頼できる人がそばにいて、そこに自分の居場所があることが幸せの本質なんだと思います、もちろん人によっていろんな幸せもあるとは思いますが」綾乃を優しく見ながら話した。
「綾乃さんはとても綺麗だし、優しいし料理だってとても上手だ、だからきっと幸せの方から寄り添ってくるとおもいますよ」
綾乃は口をポカンと開けて新を見ている。
「私初めて出会いました、幸せを分かりやすく説明してくれた人に」綾乃は目を潤ませて新を見ながら言った。
「母が亡くなってから、ずっと出口の見えない真っ暗なトンネルにいるような気持でした。でも新さんはその暗闇に1本のろうそくをともしてくれたような気がします。とても明るくて暖かい気がします」綾乃は目を輝かせた。
「新さんてすごい!私尊敬します、今日から新さんのフアンになります」そう言って新の手をにぎりしめた。
新は綾乃から寂しそうな色が消えたのは喜んだが、強い圧を感じて思わずビビッてしまった。
「私ここにきてよかった、きっとお祖父ちゃんが導いてくれたのかもしれない」
新は優しい顔をして綾乃を見ている。綾乃も優しい顔で新を見た。どうやら新は綾乃の信頼を訳も分からず勝ち取ってしまったらしい。
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