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恋の芽にワクワクという肥料を
綾乃はバス停で年配の女性みつ子さんと知り合い、買い物に行く場所やお店のアドバイスを受けた。スーパーや薬局などを回り大量の荷物を抱えて帰ってきた。
「ただいまー」綾乃は玄関に座り込んだ。
「よくそんなに持ってこれたね、大丈夫?」
「大丈夫です、かなり重たくてへとへとですけど」悲痛な声で息も切らせている。
「ごめんね、一緒に行って手伝えばよかった」
「ついあれもこれも必要だと思っちゃって、気がついたらこんな荷物になちゃってハハハ・・・」汗をふいている。
すでに夕方になっていた。綾乃は荷物をキッチンへはこぶと、夕食を作り始めた。
テーブルに並んだ夕食は意外なものだ、サラダと肉野菜炒め、チャーハン、中華スープだった。
綾乃は自慢げに両手を広げ「さあどうぞ」とままごとをする少女のような笑顔をした。
「はい、おいしそうです」新は内心ではもっとレストラン的な見た目の料理が出てくるのかと思っていたので、少し拍子抜けした。
「今日はスーパーの特売品中心のメニューですよ、ブタ肉のこま切れは半額です、もやしはなんと1袋9円です、卵は10個100円です
今日は『節約定食』でーす、どうぞめしあがれ」
「なるほど、それはすばらしい!さそっくいただきます」
二人は両手を合わせて食べ始めた。新の顔が驚きの表情へと急激に変化した。
「おいしい・・・・超おいしいです」
食べてみると味や香り食感どれをとっても納得させられた、彩の良いサラダに、しゃっきりとした野菜とうまみたっぷりに仕上げられた肉野菜炒め、パックのご飯はチャーハンへ生まれ変わり、少し味も薄めに仕上げられて全体の味付けが濃くならないようにまとめられている。中華スープは溶き卵が新ごのみにできていた。
「こんなにおいしくてしかも『節約定食』なんて最高ですね、綾乃さん尊敬しちゃいます」新はすごい勢いで食べている。
綾乃はそれをうれしそうに見ている。
「1週間分の食材を5000円で買ってきましたよ、だから月に2万円で食費がまかなえます。もちろん健康のこともちゃんと考えてますよ、ただお米は重くて買えませんでしたけど」
「僕一人だったらもっとお金がかかるのに不健康な食生活です、それに渡したのは1か月分の食費ではなくて1週間分のつもりでした」
「そんなにお金をかけなくてもおいしいご飯は食べられますよ」綾乃は笑った。
「僕は家庭料理の意味が分かったような気がします、外食とちがってやさしくてほっとするし、しかも健康的で経済的だ、家庭って素晴らしい物なんですね」
「新さんは幸せの意味は知っているのに家庭のすばらしさは知らなかったんですか?」
「まあ僕は一生家庭を持つことはないと思っていたので、家庭に興味を持たないようにしていたかもしれません。もし知ってしまったら1人が耐えられなくなってしまいそうですから」
「新さんはとっても優しくて暖かい家庭が作れそうに思えますけど」
「やめてください、1人で生きていくのがつらくなるでしょう、まったく」
二人はにこやかに食事を終えた。
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