夢の中

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夢の中

 「ねぇ、覚えてる?」そう夢の中で囁いた彼女の事を思い出せない。  カーテンを開いて朝日を浴びながら、夢の中の彼女の顔を思い出そうとしても霞がかかったように、思い出せないでいた。  夢の中のこと。そう割り切るにはどうしょうもなく物寂しく思えてしまう。  そう胸の中がぽっかりと穴が空いたみたいに、どうしようもなくなる。思い出したいのに思い出せない歯痒さが、焦燥感を募らせていった。  会社のデスクに座り名刺を確認してみるも、思い当たる人が出てこない。気持ちを切り替えて仕事に集中していても、何処かで彼女の事が気になってしょうがない。家に帰って大学の時にアルバムでも見てみるかと気持ちを切り替えて1日過ごした。  家に帰り着替えるのもおしく、アルバムを確認してみても思い出せない。高校か?探し出して見てみるもいない。当然だ。女子は1人しかいなかったんだから。なら、中学か?中学のアルバムを探すも見つからない。親に聞いてみるか?それはそれで恥ずかしいものがある。  しょうがないから、今日はもう考えずに寝る事にした。もしかしたら、夢の中でまた会えるかもしれない事に期待をしながら。  「・・・ねぇ、明日・・・に行こうね。もちろん・・・も一緒だよ。」懐かしい河川敷の散歩コースを後ろ姿のまま歩きながら話す彼女。 「・・・は早起きできないだろう(笑)」俺の声だ。まだ幼さが残る俺の声。彼女の足元にじゃれつくエスの姿。もういない大事な家族だった犬。  エスが亡くなった時も、目を腫らして泣き明かしていた彼女。そうだ。彼女だよ。でも何を覚えてないのか、俺は? そう思うと同時に目が覚めた。飛び起きると彼女の写真や手紙を探す事をしだしていた。押し入れの中をガタゴトと出して探すが見つからない。 どこにやった?机の中は?どこにもない。  スマホの中に彼女からのメールがあるかもしれないと探してみてもない。当然だ、彼女の連絡先を消してしまっていたから。    そうだった。彼女と別れてから写真も手紙も全部燃やしてしまったんだった。彼女の顔が思い出せない。なんてことだ。何を覚えてないのか。思い出したいのに。  小学の時からのアルバムを見つけて、見直していっていた。間から1枚の写真が落ちてきた。     エスを抱いた彼女の後ろ姿が写っていた。後ろをひっくり返してみると、掠れた文字で書いてあった。 「40年後、旅行に行こうね。山と海が綺麗な場所に行こうね。約束だよ。」  そうだった。この先もずっと一緒過ごすと信じていたあの頃。今彼女はどうしているんだろうか? 連絡先をどこかに書いてなかっただろうか? 誰が彼女の連絡先を知っているだろうか?そうだ、彼女の弟なら知っているだろう。でも今更聞いてもいいものだろうか?  悶々としながら朝日が登るまで、考えても仕方がない事を考え込んでいた。
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