捨てられた物

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捨てられた物

 いい、いい、捨てちまえ。  ドサッ、  深夜の暗い森林で様々なゴミやガラクタが不法に捨てられている中にを投棄し、2人は車に乗り闇夜へと消えていった。  だが、 『予備バッテリー起動······』 「あっ······あっ······ここは······」  そのが目を開く。  ――早朝、健康のためにとウォーキングを毎日の日課にしているおばさんが玄関を出る。  朝の歩きは良い、血糖値や骨粗しょう症など様々な予防になるし、始めて人も少ない午前5時なもんだから心身にも効いていると最近は思うほど。  そんないつもの道を歩き出す。すると子連れの浴衣を着た女性とすれ違い珍しいとついつい目で追っていたとき、ふらついてその場で膝をつく浴衣の女性。 「あんた、だいじょうぶかい?」  「あっ······あっ」  何とか顔を上げた浴衣の女性は、 「で······でんき······を」 「電気って······」  驚くもそれは一瞬で、感づいたおばさんは彼女を起こして来た道を戻り家へと急いだ。 「――あの、ありがとうございます」 「そこ座ってちょっと待ってな」  彼女を玄関に座らせ、おばさんがリビングから戻り持ってきたのはコンセント。それを浴衣の女性は左腕をめくり、 「やっぱりお前さん、Aiだったか」  なんと前腕の中からプラグを出して挿したのだ。 「はい、わたくしは――」型式番号を聞かされるが分かるはずもなく、やめとくれと言い、 「あたしは三六(みろく)」 「ありがとうございます。三六さん」 「一体どうしたんだい、散歩じゃあないな」 「はい、実は」  。Aiが発達し人間と大差ない時代の問題、それは富裕層などによるAiの不法投棄であった。 「本来は、予備バッテリーなどを抜いて業者に返すのがルールなのですが」 「金のかかるのが嫌で、捨てられた、かい」 「はい」  よくある話しなのだが身近で聞くと三六は腕を組みイライラする。ただの人間の不手際で人とほぼ変わらないロボットを捨てるなんて、ルールすら守れないのかと。 「んで、その赤子」  彼女が両手に抱きタオルに包まれた赤ちゃん。 「わたしと同じところに、捨てられておりました」 「······じゃあ」 「はい、赤子のAiです」  もしかしてと聞いては見たが、ため息と共に呆れやれやれと首を振り話を訊くのも疲れてくるほどの人間の身勝手さ。 「どうして赤子を」  ケチくさい言葉とは思ったが答えに興味があった三六。するとAiの彼女は赤子に顔を向け、 「暗い、くらい中で、泣き出したこの子をみて」  童話にでてくるような赤ん坊の泣き。 「かわいそうに見えました······見捨てられませんでした」  その目はロボットでも潤々としているよう感じて、自分もとうに忘れかけていた純粋な愛の情。皮肉か、人よりも人らしく何とも母親らしい答えに感動すらおぼえてしまう。 「おぎゃ〜、おぎゃあ〜っ」  湿っぽい話し合いにAiの赤ん坊の泣き声にハッと目を覚ますような両者。 「あっ、赤ちゃんが、あの」 「電気だろ、使いなよ」  泣き出したAiの赤子のお腹からプラグをコンセントに挿し込む。そんな姿に時代の進化を痛感する三六だが彼女もまた悩み始める。  本来こういうことは保健所に連絡し対処するが、そうなればもちろん2人とも処分されるだろう。  分かっているだけにあまりにも胸が痛い。  悪意のある人間、人の皮を被ったAi。前者に道は開かれど後者は分解されまた利用されるという現実。 「あんたはこれから······」  耳に入ればAiの赤子を抱いているAiの女性は悲しい顔で三六を見て、 「わたくし達に選択肢はございませんが、許されるのならここに」  三六は壁に寄り添い睨みつけた。 「お優しい三六さんが許して頂けるのでしたら、出来ることは何でもします。ですのでこの子と」  離婚し一人暮らしすること十数年、別に後悔はないし楽なもんで再婚もする気もない三六には困っていることなどないが、 「わかったよ、すきにしな」  これも何かの縁と思い住むことを許可する。 「ありがとうございます、三六さん」 「ふん······そうだ、あと」  リビングに戻ろうとすると呼び名がほしいと思い付き名前をつけてやることにした。 「お前さんのなまえは〜······愛子(あいこ)だ」 「あいこ」 「Aiが子供を抱いて家に来たんだ、どうだいい名前だろ?」 「はい」  こうして不法投棄されあてもなく彷徨っていたAiの浴衣女性は拾われた三六に愛子と名付けれその家にAiの赤子と暮らすことになった······。
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