母の晴れ舞台

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母の晴れ舞台

「あ、お帰り、梢子、ねえねえお母さん自慢したいことがあるの聞いてくれる?」 「何よ?まさかタイトル挑戦が決まったとかはないか、お母さん全盛期の頃でも挑戦にいけなかったから」 「それが親に対する態度、まあいいわ。なんとこの度お母さん、約5.6年ぶりにMHK杯の本戦出場が決まりました」 「ええ、MHKってあのMHK?」 MHK杯とは将棋でも同じ名前の棋戦があるが、数少ない、テレビで放映される囲碁の公式戦なのだ。 つまり最低でも1回は母の姿が全国放送で流れるという事なのだ。 子供の頃はお母さんがテレビに映っただけではしゃいでいたものだが、高校生となった今ではどちらかというと恥ずかしさが勝ってしまう。 しかし、母の発言で少し疑問があったので思わず尋ねてみた。 「ねえお母さん、そのMHK杯に出れるって事は、去年の成績って良かったの?」 「ええ、なに梢子、娘なのにお母さんの成績も知らないのーーー」 「いや、そもそもお母さんあんまり勝った負けたを言わないじゃない。まあなんとなく分かる時もあるけどさ」 「まあ、梢子が高校に進学してあんまり手がかからなくなった分、囲碁の勉強をする時間が増えたのもあってかな」 確かに中学3年の頃は私の受験で、色々忙しくお母さんも囲碁の勉強時間が減っていたのは確かだ。 だからといって大きな対局に出られるのは、年をくっても伸びることってあるんだなあと実感し、母の姿を私はまじまじ見ていた。 「ん、何?何か言いたそうね」 「別に、それで1回戦はいつ頃なの?」 「放送日の関係もあるから例え家族でも言えません」 「えーーー、教えてくれたっていいじゃなーーい」 正直、恥ずかしい気持ちはあるが、やはり母にとっては晴れ舞台だし、勝って欲しい気持ちも大きい。
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