夏の日

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□□□ 次の日からほとんど毎日いろんなおじさんがうちに来て、あの日のおじさんがしたのと同じことを私の体にしていった。おじさんが私の体をまさぐっている間お母さんはベランダでタバコを吸っていて、おじさんが私から身体を離してタバコに火をつけると部屋に入ってきておじさんからお金をもらっていた。おじさんが帰るとお母さんは嬉しそうに笑って、また私に「ありがとう」と言ってくれていたから、だから私は痛いのも苦いのも気持ち悪いのも血が出るのも我慢できたよ。なのに。 □□□ 夏が過ぎて涼しくなって寒くなり、少しずつ暖かくなってまた夏がきて。それを四回繰り返した夏の、やっぱりうだるように暑い日のことだった。 いつからだろう、その頃にはもう、お母さんは笑わなくなっていた。私を見る目は醜い熱を帯び、発する声は棘を隠そうともしない。 その日にきたおじさんは、一年前の夏に初めて来たおじさんだった。私にとっては他のおじさんと変わらない、気持ちの悪いただのおじさんだったけど、いつの頃からかそのおじさんが来る日だけ、お母さんはいつも以上に念入りにお化粧をして、いつもなら私に着せるひらひらの下着を自分で着て、おじさんが靴を脱ぐのも待たずにおじさんの腕に自分の胸を形が潰れるほど押しあてて、甲高い声で話しかけながら部屋へと入ってきて、ひらひらで透け透けの下着を自分から脱いでおじさんの口に自分の口を押しつけて、そのままベランダに行かずに裸の私の目の前でおじさんを自分の上に乗せて、昔押し入れの中で聞いていたあの声を上げるようになっていた。 おじさんはいつも、最初の方はお母さんにされるがままにお母さんの上に圧し掛かっていたけど視線はずっと私を見ていて、しばらく腰を振るとお母さんから身体を離して私の名前を呼び、腕を伸ばして私の腕を掴んで引き寄せると、他のおじさんと同じように苦い舌を私の口の中に押し込んできて、それから他のおじさんと同じように痛かったり気持ち悪かったり苦かったりすることを一通りして、最後に私の上で「いくよ」と呻いて体を震わせ、それから弛緩しきった体を私の上にずっしりと乗せて 「ありがとう」 と言う。おじさんの中で私に「ありがとう」なんて言う人は他にいなかったから、そのときのおじさんの「ありがとう」は私の中で少しだけ印象的だった。 だけどそれだけだ。おじさんはおじさんで、おじさんっていうのはいつだって私に痛かったり苦しかったり気持ち悪かったりするようなことをする人ってだけで、だけどそうした後お母さんにお金を渡してくれるから、たぶんきっと、おじさんがいるからお母さんは私に優しくしてくれるんだと、ずっと思っていた。 思っていたけど、お母さんにとっては、このおじさんだけは他のおじさんとは違うみたいだった。
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