11

1/1
前へ
/20ページ
次へ

11

この仕事を初めて、半年くらい経った。職場には慣れてきた。今まで二次元の板を加工していたが、立体の三次元で複雑な加工を行う部署へと移動となった。そしてまもなく、とんでもないことが起こった。品物を回転させようとして指を機械に挟まれてしまった。あっと思った瞬間熱感とともに、腕に電気が走った。 だらだらとゆるやかではあるが確実に流血している。俺は左手の中指と人差し指を、第一関節から先を失ってしまった。自分の周りは工員達が集まり人だかりができている。駆けつけた社長は表情が青ざめている。救急車を呼んでくれた。そこから一週間入院となった。 入院した森林病院は、救急病院で雰囲気が慌ただしかった。第一関節から先はぐちゃぐちゃになっていたので、指を繋ぐ接合手術は無理だった。 麻酔を打たれて、傷口をふさぐ縫合手術が行われた。全ての手術が終わった。病室では安静しているように言われた。ヘルニアの中年男性が一緒に同室となった。病院食は、健康に配慮していて、まずいと言われるが、意外とおいしいと思った。看護師は、バイタルチェックや包帯を張り替えて薬を塗り直してくれる。 両親が見舞いに来た。病室で必要な日用品、下着などを持って来てくれた。友達が二~三人、箱詰めのお菓子を携えて見舞いに来て、心配そうに言葉をかけてくれた。 三日目ぐらいで落胆はあったが、現実を受け入れ初めるようになった。少し気持ちも前向きになった。入院していて、慣れてくると、次は暇になった。その暇を潰すため、アニメを観始めた。 「かぐやさまに告らせたい」を観ている。ラブコメである。ふとミハルのことが頭に浮かぶ。 こんな大事故にあって、心配をさせたくないと思ったが。ミハルと会話したいという感情が勝って、おもいきって、電話してみる。 「もしもし松崎ミハルですけど。」 「ちょっ。ちょっとですね。事故にあって指二本切断してしまいまして。」 「えーっ。」 ミハルは、めちゃくちゃ動揺している。 「動揺させてすいません。気持ちはだいぶ、大丈夫になってきました。少し痛みは引いて来ました。」 「どうして、そんなことになったの?」 「品物を回転させようとして、誤って、左手の中指と人差し指を巻き込まれました。」 「きみって、こんなときになんだけど。不器用だねー。」 「本当にそうなんですよ。ミハルさんに認めてもらいたくて、働き始めたところあるんですよ。」 「ばっかじゃない?怪我したら何にもならないじゃないの?」 「そうですね。わかってはいたんですが。ばかです。」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加