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布団が乱雑に並ぶ。男女が別れて、大部屋に集められ、寝ている。朝、目が覚めた。なぜか自分のいつもの部屋ではないのに、よく眠れた。入信を決めたのは、素人の女性とセックスができるということに惹かれたスケベ心からである。 歯を磨き、朝食を食べるなど朝の身支度を済ませると、修行が始まる。お経を唱える勤行がまず始まる。漢字だらけで、最初戸惑ったが、漢字の横にふりがながついているので、なんとかついていける。勤行が終わると、そこから唱題といってひたすら「南無妙法蓮華経」と唱える修行が始まる。何時間も唱える修行なので、集中力が続かない。修行が続かない時の対処策として隣接する部屋に通され、荒木様が説法するビデオを見せられる。 回復したと指導員が判断したらまた唱題に戻され、ひたすら「南無妙法蓮華経」を唱える。 最初唱題は30分くらいが限界であったが、しだいに唱える時間が伸びていき、3時間まで唱えれるようになった。 午後から仕事がある。旭日の会は介護事業所に、温めてからすぐに食べれるレトルト食品を製造、販売している会社でもある。レトルト食品は銀色のパックや透明なビニールのパックに入っている。仕事内容は大きな鍋や鉄板で肉や野菜をきったり、焼いたり、煮たりする。大人数分、大量に作るので、調理器具は大きなものが多い。料理されて完成されたモノは真空パックにされ、そのまま冷凍される。 何もできない俺は最初全員で行う食材の洗浄を担当するように言われた。手洗いで、丁寧に洗っていく。他の人はスピーディーに洗っているが、まだ要領を得ていない俺は遅く作業をする。 いつだったか、俺は自分のあまりの不器用さに高校生の頃、心療内科に行き知能テストを受けたことがあった。言語性知能は普通であったが、動作性知能が極めて低くかった。責任者の三好(みよし)さんに「このままゆっくり作業していいですか?」と訊いたら、「心配しなくていいよ」と返答をもらった。 一般的な料理では食材を洗うことなど、さっさっと終わるが、ここでは大量に調理するので食材洗浄も大量となった。しばらく時間が経った。 三橋さんという中年の女性と一緒に配達に行くように言われた。車の運転は一人で行うが、荷物をおろす作業は一人で行うより二人で行ったほうが、時間を短縮できるという理由からだ。 三橋さんは年齢に合わずに、髪型を三つ編みにしている。初対面で、会ったとき俺は、そのことにハッと驚いた。商品の配達は広範囲にわたる。けっこう車内で三橋さんと話す機会もある。 カチッとシートベルトを嵌めた。仕事ではあるが、どこか遊びに行くような感覚だ。配達場所が長距離に入った。 「君、なんでこの宗教に入ったの?」 三橋さんは単刀直入(たんとうちょくにゅう)に訊いた。 「友達に誘われて・・・」 「嘘っだー。あんたも恥辱(ちじょく)の修行が目当てで入ってきたんでしょっ」 「恥辱の修行って?」 「見知らぬ男女がマジックミラー越しに誰かに見られながらセックスに耽る修行」 「あっ!!半分当たってます」 「うちの目玉の修行だからね」 「もてない男どもが何かの情報でそのことを知って、うちにやってくる。女はどこか傷つきやってくるやつが多い。あたしも旦那のDV(ドメスティックバイオレンス)離婚して人生が狂い始めて、どこか居場所が欲しかったの。それでこの宗教に入ったの」 長距離の移動が終わった。ある軽度認知症がたくさんいる介護事業所に到着した。手早く荷物をおろしていく。三橋さんが介護事業所の人とやり取りをしているときは、俺と話しているときと違って腰の低い様子を見せる。少しずつではあるが、三橋さんと息の合うように荷物をおろせるようになっていった。 ローラーのついた台車にダンボールの荷物を乗せていく。料理されたものを容器に入れて運んでいって、ひっくり返したら大惨事になるが。今運んでいるものは冷凍されていて、カチカチなのでミスでひっくり返しても大丈夫である。と、心配症の俺は思ってしまう。 大小さまざまな事業所を回った。大きな事業所では荷物をおろす作業に専念することになる。 小さな事業所では、あいさつ程度に世間話をすることもある。事業所から車内に移ると、三橋さんがあの人、美人だったね。とか云ったりした。 道場に戻ってくると14時くらいになっていた。 昼食を三橋さんと共にしたが、三橋さんの話の内容から察するに、道場内では真面目を装っているようにも思えた。午後からは、調理場の清掃作業を行った。俺は1~10まで、丁寧に説明を受けながら、清掃作業をした。しばらく本を読むなどのめいめい作業をしていて、俺は恥辱の修行の番だったので、その部屋に入った。
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