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19
業務用に調理する日中の仕事には、慣れてきた。
恥辱の修業の初体験は当初は感動と快楽はあったが、日常と化するとそれは薄らいでいった。
恥辱の修業ではいろいろな人と出会えた。拒食症の柳木さんは、修業のとき服を脱ぐとガリガリなのがわかった。子供を堕胎させた佐々木さんは、子供を堕ろすときの手術の苦しみを語りあった。統合失調症の木村さんとは、話しているときに幻聴の症状が出て困った。みんな、いろいろな想いを抱えながらこの宗教に入っている。
そして、広報活動も行うようになった。外部との接触を与えて息抜きという意味合いもあったのだろう。車に乗って街中に行って、ビラまきをする。そのときだった。誰かに見られているという意識が働いた。視線を感じるというやつだ。
「ちょっとアナタ何をやっているの?」
ミハルとすぐ認識できた。
「えっ宗教活動かな。オレはこの宗教に入って変わったんですよ。旭日の会って、いうです」
「きょ、旭日の会!?それってカルト宗教じゃない!!アナタ、ここじゃあれだから。話し合いに、すぐそこのミスタードーナツに行って少し話し合いましょう」
一生懸命に云うので、団体の責任者ヨシムラさんに断りを言ってその場を離れることにした。
ミハルと一緒にミスタードーナツに向かった。ミハルに好意があったことも頭に蘇ってきた。
少し歩くと遠目からでもミスタードーナツという赤い文字が目に鮮やかに残る。店内に入った。二人は、ガラス戸越しによく景色が見える席に座ることにした。いろいろな種類のあるドーナツから、ミハルが適当に2つ選んで席についた。
「まぁ、びっくりしたアナタが宗教をやっているんだってね」
「ある人の紹介で入りました。成り行きかな」
ミハルも俺もまったくドーナツに手をつけてないし、飲み物も飲んでいない。
「何か学んだことはあった?」
「ミハルさんみたいに勉強が得意じゃないから、カラダに覚えてこませる修業が身に付きましたね。ひたすら、お経を唱えるとか」
「あとは?」
「見知らぬ者達が男女の関係になる、つまりセックスをするという修業かな」
「やばっ」
ミハルは思わず言葉を発した。
「オレはもうこの世界で生きていく!!
荒木様が世界の中心にある。
荒木様が世界の中心にある。
荒木様が世界の中心にある」
俺はかなり興奮状態で口走った。
「アナタ、洗脳されているのよ」
きっぱりと、ミハルは断言した。
俺は、ビデオを修行中見続けたせいで荒木様に心酔していた。
「わたしが洗脳を解いてあげる」
会計を済ませると、ミハルが俺の腕を引っぱた。
づんづん腕を引っぱられながら進んでいく。
ミハルが俺のことを心配してくれているのが、
うれしかったので抵抗などせず、それに従った。
茶色のあるマンションに到着した。
家の中に入った。
「ここでわたしとアナタとで、セックスとかないから」とスパッと前置きした。
部屋の印象は最小限の家具があり、あと大きな本棚があった。大きな本棚から、ミハルは元々本が好きで図書館司書の仕事に就いたのだろうと推察される。ミハルがいろいろ調べものしながら、パソコンで論文を書いてるさまが窺える。コートを脱ぎながら「ドーナツ、結局手をつけなかったね」とミハルは言った。ミハルはすぐに台所に立った。ボールに粉を溶いている音が聞こえてきた。すぐさまジュージュー焼いている音に切り替わった。甘い匂いが立ち込めてきた。
「ほら、できた」
出てきたのは、ホットケーキだ。それをミハルと一緒に食べる。しばらく経つと一室にミハルは布団をひき初めた。俺はすぐに寝るようにミハルに促された。そして寝始めた。旭日の会での日常から性欲が沸き上がり、ムラムラし始めた。ミハルの部屋を訪れる。すやすやと寝ている。俺が部屋に入って来てもミハルは気づいてない。
布団をめくると、「キャー何してるのよ!!」
ミハルは台所へ行った。引き戸の中から包丁を取り出してきて、俺に向かって包丁を握りしめて威かくしてきた。
「アナタとセックスはないって、言ったじゃない!」
「すいません。ムラムラしてきちゃって」
その日からミハルは包丁を枕元に置いて寝た。
俺はミハルを襲うことはなくなった。ミハルは俺のことについていろいろ調べはじめた。そして催眠術で俺の旭日の会での洗脳を解くことを決意した。インターネットである動画が参考になり、ミハルはこれだと思った。
ある日、ミハルは俺をソファーに座らせた。
「息を吸いながら、腕を伸ばしていきましょう肩からチカラが抜けてくる」
ミハルはまず俺の緊張を解いた。肩からチカラを抜く体操を繰り返し行うと、俺は少しフワフワとした気持ちになってきた。テーブルにあるライターに火を灯した。
「この火をよーく見て、ほら目が離せなくなった」
ミハルはライターを円を描くように動かした。
「じーと見ていると、まぶたがだんだん重くなる。すーっと目が閉じますよ」
ミハルから言われると、俺は深い催眠状態に入ったようだ。非常に暗示にかかりやすい状態だ。
次にミハルはテーブルにある呼び鈴を手に取った。呼び鈴を鳴らした。ピーン。
「3つ数をかぞえると、全身が心地よい脱力感に包まれます。さんにーいちハイ」
ミハルは手を叩いた。俺はすーっと目を閉じて深い脱力状態になった。
「今から訊くことにすべてハイと答えなさい」
「わたしは旭日の会の会員ではない」
「ハイ!」
俺は口が勝手に動いた。
「わたしは荒木様を尊敬していない」
「ハイ!」
このやり取りで、ミハルは催眠術は十分に効果があったと、確信した。ここでふつうは催眠を解くが、ミハルは解かなかった。俺の中で何かが変わった。荒木様への心酔状態がピタリとなくなった。ミハルは俺に告げた。よし、洗脳が解けたようなので2、3日経ったら、ここを出て行ってと言った。俺はそれに素直に従った。当日、送り出しのパーティーをミハルはしてくれた。たこ焼きパーティーをした。粉を解いたり、食材を切ったりして手伝って、楽しかった。「じぁね」と言って、ミハルの家を着の身着のまま出ていった。
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