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 疲れているのかもしれない。  いや、やはり喪失感が大きいのだ。妻だけではなく、自分も。  子供たちが皆、同時に家を出て行ったのだ。普通に考えて寂しいわけがない。  まだそれほど実感はないが、本当はかなり精神的に来ているのかもしれない。  夕食の片付けを終え、彼はリビングのソファーに座った。  妻はまだキッチンにいて、コーヒーを淹れてくれている。  と、リビングに置いている電話が鳴った。 「僕が出るよ」  電話は娘の珠美からだった。  彼と妻はもちろん携帯を持っていたが、娘はいつも固定電話にかけてくる。  携帯にかけても二人とも気づいてくれない、というのがその理由らしい。 「お父さん? ちょっとお母さんにお料理の作り方を教えてもらおうと思って」  珠美が電話の向こうで言った。 「料理? お父さんじゃ駄目なのか」 「チーズとツナのパンプディングとか、作れる?」 「そんなこじゃれたもの、作れん」 「でしょ」  何か話そうかと思ったが、特に話題も探せなかった。照れもある。  取りあえず、一人で元気にやってそうだ。それがわかれば十分だ。  彼は妻に替わろうとしたが、ふと思い出して娘に訊ねた。 「和室の押入れに段ボール箱があるのを知ってるか? 『キツネボックス』と書かれたやつだ」 「知ってるよ。キツネの絵は私が落書きしたの。小学生の頃だったかな」  彼は受話器を握りしめた。  そして、妻に聞こえないように声をひそめる。 「あの中には何が入ってるんだ? おまえたちの工作が入ってるのか?」 「違うよ。あの箱の中にはお父さんの大切な物が入ってるから、絶対に開けちゃ駄目だって、お母さんに言われたの。だから、開けられない腹いせにキツネの絵を描いたわけ。お兄ちゃんたちが物心ついた頃には、もうあったって聞いたことあるよ。だから、その前、お父さんとお母さんが結婚した頃からあるんじゃないかな」
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