メロンソーダが弾けた

2/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 目元がやけに眩しくて、瞼を持ち上げる。何度かまばたきをすると、隙間の空いたカーテンが見えた。視線を下げると、灯のつむじが目の前にある。もう少し視線を下げたら、彼女の胸が全部見えてしまいそうで、慌てて逸らす。昨夜の自分はそれを、触ったりしていたのに、今は恥ずかしくて仕方がない。彼女を抱きしめているので、彼女の肌とあちこち触れ合っているのも辛いので、離れたいが、それでは彼女が起きてしまう。汗と彼女の匂いが混ざって、気を失ってしまいそうだ。  数分、息を止める勢いで動かずにいると、灯の瞼が震えた。長いまつ毛が重そうに持ち上げられ、その下から、眠そうな瞳が現れる。迷子のように彷徨った瞳が、僕の瞳を見つけると、桜色の唇が緩められた。 「おはよう」 「ま、待って」  僕にすり寄るように近づいてきた灯は、もっと密着してきた。肌の熱も、胸の柔らかさや形まで分かってしまう。 「待たないよ。恥ずかしがり屋さん」 「ごめんなさい! 昨日の僕は調子に乗り過ぎましたよね」  灯の枕になっていないおかげで、自由に動く左手で、顔を隠す。 「全然だよ。何をするにも、私に確認ばっかり取って。もっと調子に乗っていいんだよ」 「そんなことしたら、無理です」  調子になんて乗ったら、自分がどうなってしまうのか分からない。変なことをして、灯に嫌われでもしたらと考えると、恐ろしくて仕方がないのだ。 「優也らしいね」  体を起こした灯は、薄く明るい部屋の中で、一等美しく見えた。面白味のない、必要最低限の家具しかない部屋にいるのは、あまりにも不似合いに思えてくる。寝ぐせの付いた髪が、丸い肩に流れ、左胸の付け根にあるほくろが、白い肌の上で目についた。 「朝ご飯、下の喫茶店のモーニングでもいいですか」 「もちろん。その前に、シャワー借りるね」  灯が部屋を出た後も、僕はベッドから起き上がれずにいた。シーツに残った彼女の体温と匂いが薄れる前に、できるだけそこにいたかったのだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!