メロンソーダが弾けた

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 お寺さんを出ると、灯は坂を下りていた。重力に従ったぎこちない足取りで、僕から遠ざかっている。 「灯さん!」  転がるように追いついて、灯の左手首を掴む。細い腕を引っ張って、無理やりこちらに向かせた顔は、粉々に壊してしまいたいほど美しかった。涙に濡れた重そうなまつ毛は、その奥にある黒い瞳を引き立て、赤く染まった頬の上で、水の粒が踊っている。薄く開かれた唇から覗く歯は、鱗のように規則正しく並んでいた。 「私のせいだ」 「違います!」  甘そうな雫をこぼし続ける灯は、その場にへたり込んだ。正午が近く、一緒に膝をついたアスファルトは焼けてしまいそうなほど熱い。 「分かってる。偶然だったって。でも、その偶然が憎くて仕方がないの、優也」  灯の指が、腕に深く食い込む。広がったワンピースの上に、一つ、また一つと涙が落ちた。 「幸大、ごめん幸大」  僕を掴んでいた手を離し、灯は自分の顔を握りつぶすように覆い隠した。丸まった背中は、より彼女を小さく見せる。抱きしめると、震えているのがよく分かった。  幸大がうらやましい。彼は永遠に灯の中にいる。一番、彼女に愛されている。僕だって、彼女に愛されたい。忘れてほしくない。  坂の上からは、海がよく見えた。
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