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 ブラックバスを大きなクーラーボックスに入れた後、ロンはもう一度針にミミズをつけて、仕掛けを揺らめく水面へ投げ込んだ。  僕はその流麗な動きをじっと眺めていた。ロンは動きが滑らかで、無駄な動作が少ない。その上、軽やかで素早い。まるで釣りが彼に与えられた正規の職業のようである。 「何だよ、気持ちわりいな」  小さな一匹を釣り上げて、やっと僕の視線に気付いたロンが口をへの字に曲げてこちらを見ていた。僕は慌てて目を逸らす。 「お前も、やってみる?」  ロンは釣り竿を引き上げて、僕に渡した。初めて持つ竿は予想よりも弱々しく、あれだけ暴れまわる魚を引き上げたとは思えないほど簡素な作りだった。 「あの、でも僕何も知らなくて」 「適当でいいんだよ。仕掛けを投げて待ってりゃ勝手に食いついてくるから」  言われるがまま、僕は竿を振る。力なく飛んでいった仕掛けは一メートルほど先に着水した。ロンの柔らかい手首の動きを意識したつもりだったが、全く飛んでいかない。これでは釣れるものも釣れないだろう。自分の力不足を知り、小さくため息をついたその時、いきなり竿が持っていかれる。足に力の入っていなかった僕は思いきり水面の方へと引っ張られた。咄嗟に地面を踏みしめた時、僕の二の腕が後ろへ引かれる。細く、白い腕。ロンの腕だった。
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