桜桃

７

「でけえぞ、耐えろ」

　僕の腕は必死に竿を掴んでいた。目の前で暴れる魚。何の魚かはわからない。だが、最初にロンが釣り上げたものよりも明らかに大きい。ロンが小さい声で僕に指示を送る。段々と僕自身も落ち着きを取り戻しながら、強烈な勢いで竿を引く魚との格闘に血を滾らせていた。

　動きが鈍くなった瞬間を狙って、リールを巻いていく。しかし、まだ魚は動き回る。

「焦んなよ。勢いに任せて巻いたらバレるからな」

　バレる、という意味は分からなかった。だがロンに言われた通り、心を鎮めて竿を左右に振った。すると、ついに魚が姿を現す。それは大口を開けて水を食らっていた。竿を立ち上げながら、ゆっくりと岸まで引き上げる。最後はロンがタモで魚をすくい上げた。そこには四十センチはあろうかという大きなブラックバスが身を捩らせていた。

　初めて釣り上げた感触が手のひらにしっかりと残っている。何かを成し遂げたという達成感が震えとなって現れていた。

「すげえぞ、ランカークラスにあと一歩ってとこだな。初めてでよく釣ったよ」

　ランカーとは後に聞いた話だが、でかいサイズのブラックバスを指すらしい。明確な定義はないが、五十センチ以上のサイズをそう呼ぶそうだ。