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 ロンが針を外し、口を持って掲げる。その表情は自分が釣った訳でもないのにやけに嬉しそうだった。ロンが初めて僕の前で歯を輝かせる。黄色く、汚らしい歯。だが、僕はその初めて見た笑顔に得も言われぬ感情を覚えていた。そのむず痒いような感覚が、ロンに負けないほどの嬉しさを僕に齎した。  それから、僕の釣ったブラックバスはダイとロックにも見せられ、二人から才能があると褒められた。勿論僕がブラックバスを自慢した訳じゃない。「ベントがすげーの釣ったんだよ」とロンが自慢してくれたのだ。思えば、初めてロンが僕を「ベント」と呼んでくれた瞬間だった。  僕は褒められたことのない人生を歩いてきた。頭も良くなければ運動もできない。誰も僕に期待をしていなかったし、見てくれる人もいなかった。  褒められると脳から今まで知らなかった何かが分泌してきて、全身が温まってくる。今まで友達と呼べる存在も、親と呼べる存在もいなかった僕が、初めて認められたような感覚だった。  釣った魚は焼き魚にして食べる段取りとなった。僕たちは小屋を経由してテディを拾い、ロンとダイの住む場所まで戻ることにした。
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