箱庭の世界

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 ふと、遥か遠くにあった扉から、光が漏れた。気づくのが遅れて、ひたすら啜り泣いていたら、布団が揺れたのがわかった。  とても遠くに、母の存在を感じた。  前髪をおでこから落とすように、ゆっくり撫でる。冷えピタはもう温くなっていたけど、その一瞬だけ冷たさを感じた。  自分の身体が熱すぎて、母の体温なんて全く感じなかった。けど、頭に置かれた手の感覚や、布団の上で振動を伝えるリズムはわかった。  怖いよ。  そう伝えたかったけど、伝えられていたかは覚えていない。何せ、自分の感覚なんて別の力に支配されていて、頼りにならなかったから。  それでも母は、暗い部屋の中で囁き続けた。  大丈夫。大丈夫だよ。  つらいねぇ、早く寝ちゃおう。大丈夫、すぐ良くなるよ。  私の声は枯れているのに、優しい声はいつも通り。私の鼓動は血の巡りの速度を正常に保っていないのに、あの手から伝えられる拍子はいつも通り。  景色が広大になる感覚は変わらないのに、孤独感が薄くなった。  この世界が、私と母の2人だけのような気がした。  知らない間に眠りにつけたのは、握った服が離れなかったお陰だ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加