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1話
ギャンブルは素晴らしい。腐りきった現実を忘れさせてくれる。
ギャンブルに興じてる時が夢の中なら、競馬場はさしずめ大人のディズニーランドといったところだろうか。
日曜日。世間はつかの間の休息日といったところだろうが大人の僕は違う。
府中競馬場、ここが今日のテーマパークだ。むろんテーマは馬しかないのだが。
生活費を極限のギリギリまで削って臨んだ大一番。漢の意地とプライドをかけた単勝1本賭け。20000円勝負。
ファンファーレが場内に鳴り響く。きたきたきた。この馬が走る直前が一番高揚感が高まってくるのだ。
そしてここからが暗く重くのしかかった現実から逃避させてくれる。
少しずつ興奮と緊張が脳内を侵食していく。そうだ。その調子だ。そのまま現実を忘れさせてくれ。
脳内がアドレナリンで溢れかえってきた時、後ろポケットに入れたスマホが着信を告げる。
くそ。これからってとこなのに。画面を見ると、見慣れた金融会社の名前が映し出されている。
いつも通りなので、無視してスマホをポケットにしまう。しかし督促は無視できるが、こうなると一気に現実に戻される。
いつからだろうか、最近はギャンブルに興じていてもどこか心は別のところにある気がする。“全盛期”の僕なら、そもそもスマホの着信なんて気付かなかっただろう。
思いかえしてみると、好きなことに対する集中力は人一倍あった気がする。
小学生の頃お母さんに買ってもらったポケモンは、図鑑が埋まり切った後もしばらくやり込んでいた。
中学生の頃に覚えたAV鑑賞は、ひたすらネットの海を航海した記憶がある。性癖にぶっ刺さる動画を見つけ出した時の感動は何物にも代えがたいものがあった。
高校生の頃には好きだった女の子のTwitterを一日中監視していた。むろん監視というより、悪い男が寄り付かないようパトロールしていたつもりだ。
大人になると好きなことに打ち込めなくなるのだろうか。ギャンブルが好きだ。競馬が好きだ。そんなはずなのに、どこか別のことを考えている。
自分が恥ずかしかった。純粋に好きと言えない自分が。
もう一度紳士に向き合おう。きっと熱い気持ちを持ってレースに臨めば、結果だってついてくる。このレースから胸を張って生きていこう。
そう心を入れ替えると、視界が広がった。世界が明るい。ここは夢の国なんだ。
-60000円 そう夢なんだ。そうだよねミッキー。
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