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式が終わり、僕は新郎の家族席にいる彼に駆け寄って行った。
「式の間、あの夏休みの夜の事思い出してたよ」
「お前ってそんな昔の事、よく覚えてるよね」
「僕にとっては初めて好きな人と両思いになれたと思えた瞬間だったから忘れたくても忘れられないよ。まぁ、そっちはどうだったか知らないけど」
「俺だって初めてだったよ、経験豊富みたいな言い方するなよ、人聞き悪い」
僕は、今日の式の間中、ずっと不安だった事を聞いてみた。
「ねぇ、あの日ああなったこと、後悔してる?
」
「してないよ、なんでそんなこと聞くんだよ」
「自分の兄夫婦の結婚式を見てさ、自分にもこういう未来があったのかもなって、もしかしたらそう思ってないかなって」
そう聞くと彼は黙って下を向き、しばらく考え込んだ。答えづらい質問をしたのは重々わかっていたが、いざ返答に口籠られると傷付いている自分がいて、自分の覚悟の無さが情けなくなった。だったら初めからそんなこと聞かなければ良かったのに。
重苦しい沈黙の後、彼はようやく口を開いた。
「いつか俺たちも結婚式やればいいじゃん」
そう笑いながら言うと、彼は僕の方を見ずに反対側に歩き出してしまった。初めて抱き合った後と同じようだけど、今ならそれが彼の照れ隠しだってちゃんとわかる。僕は彼を追いかける。
あの夏休みの夜から暫くして、僕らは正式にお互いの気持ちを確かめ合い、今日までずっと付き合っている。もう10年近くになる。その間色々と社会は変わってきたけど、僕らが周りから心から祝福してもらえる日はまだまだ遠い気がしている。いつかそんな日が来るまで、いつか結婚式が開ける日まで、僕は彼の隣に居ようと思う。
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