いつか結婚式を!

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 会場が暗くなり、新郎新婦の馴れ初めVTRが流れ始めた。お決まりのBGMと共に、幼少期の写真が映し出される。それは彼と兄が追いかけっこをしている写真で、会場からは女性陣の「可愛い〜」という声が上がった。その他にも家族写真が何枚か写り、そのどれもが弾けるような笑顔で、彼が周りの人から愛されて育ったことを感じさせる物だった。    お風呂上がりの彼を目の当たりにした時、うまく目を合わせられなかった。ランニングシャツから覗く筋肉質な腕は何か見てはいけない物のように感じられて、首のあたりにぼんやりと焦点を合わせるようにして話していたから、彼の目には不自然に写ったと思う。それから、僕は彼の母親が床に敷いてくれた布団に、彼は自分のベッドに寝て、電気が消された。電気が消えた後も僕たちは他愛もないことを話し続けた。彼は相変わらずゲームの話をしていたし、僕はそれに曖昧に相槌を打ちながら、時々学校の先生の噂話をしたりした。そうしながら僕は、やっぱり彼の声が好きだと思っていた。  彼のどこを好きになったのだろう?見た目だろうか?それは正解でもあるけど、自分にだけ心を開いてくれた(少なくとも僕は自分にだけ、と思っていた)ところなのかもしれないと、今になって思う。初めて彼と同じクラスになった時、彼は教室では寡黙で、その髪型と同じくツンツンと尖った空気を纏っていたけれど、兄が同級生なので元々顔見知りではあった僕に対しては笑顔で話しかけてきてくれた。彼は特別気難しい性格でも無かったけれど、見た目が少し怖そうに見えた事と、極度の人見知りが原因で尖って見えていたのだと思う。  それでも数ヶ月も経つと少しずつクラスメイトとも打ち解け始めて、次第に笑顔で話している様子も見るようになった。その光景を見た僕の中には、安心したとか嬉しいという気持ちではなく、寂しさで溢れた。寂しさは熟成されて嫉妬心へと変わっていく。彼が笑顔を向けるのは僕に対してだけであって欲しい。そう思い始めた頃にはもう、彼の事がどうしようもなく好きだと認めざるを得なかった。
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