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めちゃくちゃ美味しかった。
甘いものもしょっぱいものも紅茶もコーヒーも全部美味しかったし、量もいっぱいあった。佐々木が途中でお腹がいっぱいになったからとキッシュとスコーンをくれた。
「美味しかった?」
「うん」
さすがに俺も腹いっぱいになった。このアフタヌーンティーに時間制限はないけれど、そろそろ帰る時間だろう。俺はカフェオレを、佐々木は烏龍茶を飲んでいる。
「アフタヌーンティー初めてだけどすごいよかった」
「本当? じゃあまた行こうよ」
「あー……でも、どうかな」
「何?」
佐々木がじっ……とこちらを見つめてくる。顔が本気で整っているので、同性でもなんだか居心地が悪くなる。顔が赤くなってないか心配だ。
「えっと……いや、俺あんまバイトしてないから……今日みたいなのは本当にたまーの贅沢かなって」
金持ちの佐々木にこんなことを言うのは気まずいけど、菓子を食べ歩いてる俺でもホテルのアフタヌーンティーはちょっと気軽に行ける値段じゃない。
「奢るよ?」
「は?」
「今日ももう払ってるし」
「は?」
「お金のことが理由なら俺が払うからまた行こうよ。気になるアフタヌーンティーまだいくつかあるんだ」
「いや……そんなんされても返せないし……」
「じゃあ今度クッキー焼いてくれる? あのステンドグラスのやつがいいな」
前にSNSにあげたやつだった。穴の開いたクッキーに砕いた飴を入れて焼いてガラスみたいにするやつ。俺は本当にステンドグラスみたいにしたのを作った。
「そんなんでいいの?」
「いいよ。あと作ってるところも見たいな」
「まあ……いいけど……うち狭いよ」
「楽しみだな」
来ることになってしまった。別にいいけど……別にいいんだけど。
「そんなに菓子好きなんだ」
全然そんな印象なかったな、と思うけど、そもそも何が好きとか嫌いとかの印象を抱くほどの関係も関心もなかったことに気づく。展開が急だ。
佐々木はにっこり笑う。今日一日、ずっとこんな顔をしてる。すげー嬉しい、すげー楽しい、って顔。
「好きだよ」
大事なことをそっと囁くみたいな言い方で、俺でもちょっとぞくっとした。
「すごく好き。可愛いし」
それ、菓子の話だよな?
浮かんだ疑問を口にすることが出来なくて、俺はとりあえずさめかけたカフェオレを口に運んだ。
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