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レベル 1 ― 交渉 ―
時は令和三年――、
富士山麓に広がる樹海には複数の魔物が姿を現し、最前線において陸上自衛隊分隊魔物対策特殊部隊が応戦していた。
「ジージーッ、ポイントFクリア。時空間の亀裂発見、新たな流出はここで阻止する」
「ジージージッ、了解」
現代に繋がれた異世界との時空間ブラックホール、過去のデータより解析するとその大きさから推測して消滅するのは約一時間後。その間、一般市民の居住区へ一匹も魔物を逃すことは許されない。
バームクーヘンの中心部を異世界への入口に想定し、部隊は外周から一気に層を崩しながらエリアを狭め魔物を駆除して行く。特殊部隊の現代武装に流石の魔物どもは太刀打ちする術はないまま、衛星から送られるレーダーに映る光の数は次第に減少してゆく。
「ジージーッ、エリアBクリア」
「了解」
エリアE、中心部までの距離残り三十メートル。携帯レーダーには六体の魔物の光が輝く。
「何処にいる? パーティーはこれからだぜ」
「パキッ」
視界が遮られる森林の中、微かに枯れ枝が折れる音が響く。
「ダダダダダダ――ッ」
撃ちまくる自動小銃が木霊し、レーダーの光は瞬時に三体消え去った。
「残り三体、とっとときやがれ!」
異臭を放つ黒紫の液体をドクドクと流す三体の獣系魔物の死骸を踏みつけ更に中心部へと進む――。
『残り、二十メートル……、すぐ近くにいる筈だ』
「ザザッ」
微かに揺れ動いた新緑葉へと向けられた鋭い眼差し。魔物駆除の快楽を堪能するかの様に一人の兵士は銃を肩に掛け、小刀を握りしめた。身を屈め息を潜め見つめる視線の先には、小動物系魔物の姿。外観はハムスターの様だか大型犬程の大きさをしている。
「なんだ、雑魚か」
レーダーには重なる三つの光。
『まだ近くに二体いる。……ごくっ』
背後から雑魚を仕留めるべく歩みよるが、奴は近づく気配に気づくことはないまま大樹をじっと見つめていた。
『――仲間の二体は木の裏側かっ』
俺は右手に小刀、左手にサバイバルナイフを握りしめ一気に襲いかかった。
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