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テーブルに座るジルトとルシファは用意されたご馳走には一切手を触れてはいなかった。
「ムシャムシャ」
宴に響くのは魔物姫の野菜をかじる音だけ。
『ジルトとルシファも気づいていたか……』
村人たちの多くは質素な服を着こみ靴を履かない者も見受けられ、更に健気である筈の子供たちは皆表情は微笑んでいるが、余程空腹なのであろう下腹部を押さえていた。
『見渡す視界の中には働き盛りの男の姿はなく、兵士の鎧を着こむ者達はよく見ると腰の曲がる老人ばかり――、俺が助けた兵隊長のタンジュニア。恐らく彼は兵を連れ戦に出向いたに違いない。生き残ったのは、彼だけなのか?』
そう脳裏で自己見解を終えた時、ジルトは村長タンシニアへと声をかけた。
「我々は一切れのパンさえあれば十分でございます。どうぞこの宴の食事は村民達でお分けくだされ」
ルシファも隣で頷き賛同する。
「なんと……」
想定外の言葉を耳にこれまで張り詰めていた緊張感が解けたのか、村の伝統を守るべく助けられたし旅人をおもてなしする姿勢から解放されたのか、周囲からは涙を流す村民の姿。
「旅の者達よ。そなた達のご厚意に感謝する。好きなだけこの村にご滞在くだされ。そして民たちよ、お言葉に甘え食すが良い」
テーブルへと駆け寄る子供達。その姿を目にタンジュニアは涙を零す。
「兵隊長、宜しければ訳を聞かせてもらえませぬか? もしや、我々にも力になれる事があるやも知れませぬ」
ジルトのその言葉を受けタンジュニアは救いの目を向ける中、俺に視線を向けた彼の眼は明らかに泳いでいた。
『俺は命の恩人だぞ――!』
そう心で叫ぶことも無駄だろう。彼の瞳に映る俺の姿は、ロン毛の骸骨。何故かズボンだけはいている奇妙な風貌。ちなみにこの時の俺は、昨夜のルシファの柔らかな小ぶりのおっぱいを想像していたから間違いなくもっこりさせていた。
そう――、俺は自ら村の問題に首を突っ込むことを辞めた。話なら異世界人同士のジルトで十分だ。では俺は今何をしているかと言うと……。
「わぁい! ロン毛の骸骨っ、ロンガ―!」
「これこれっ、髪の毛は引っ張るなっ」
そう、村の子供達と仲良くなっているのだ。うん? そこの暇人、今ロリコンに走ったと期待しただろう。むふふっ、そのとおりだ。
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