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痩せたいやせたいと言いながら食べ物を口にして読んでいる暇人を相手にしているうちにツンデレエルフは姿を消した。
『キョロキョロ』
「うん? えっ……」
再び視界に飛び込んできたのは可愛げのあるエルフではなく、五十センチ程宙を浮きながら滑る様に水平移動する三つの怪しき者の姿。
一際目をひくのは黄金色をした鎧の隙間から強靱な肉体美を露出する大きな男、脇腹には巨大な剣を装備し戦国武将を想像させる。次に続くのは白衣を着こみ、床に付きそうなほど口元から伸びる長い白髭の老人の姿。そして一人距離を開け最後に姿を現したのは――。
「ごくっ……」
あろうことか花魁のような装いを着こなしつつも、その姿はシースルー。
『見えるっ……、見えるっ……、ふくよかな胸先の干し葡萄が……』
「十……、九……、
……、
五……、
……、
二……、一……
終わりじゃっ、
暇人どもの変態妄想時間に五行も使ってしまった」
あまりにも統一性の無い怪しげな連中の登場に、俺は不覚にも身動きが取れない。
『このまま俺は殺されるのか?』
ならば悔いのない様、死の直前まで干し葡萄を拝まねば――、そう覚悟を決めた時、戦国武将が口を開いた。
「ほほぉ、お主が選ばれし者か?」
「……」
「うむうむっ、若く誠実さが感じ取れるのぉ」
「……」
「あらっ、うふんっ、なかなかの色男ねぇ」
「……」
宙を浮く彼らは俺様の周囲を回り、品定めするかのように各々が語りかける。
『なんなんだコイツら?
だが……、殺す気ではなさそうだ』
「がぁわははははっ、そう怯えるでない」
キラキラと輝きを放つ黄金の鎧を揺らし武将は目の前に着地すると右手を差し出した。鎧に映る自らの姿――、この時俺はジルトが告げていた最終形体の変化の記憶を蘇らせる。
余命宣告したジルトの言葉……、確かに俺は複数の落雷に打たれ灰と化した、しかし死することは無くまだ生きていた。だとすると俺の寿命はあと数日ではなく最終形体への変化の予兆だったのだ。
「あぁぁ……」
『コレが俺なのか――』
歳は二十代前半ほどに若返り、細身だがしっかりとした肉付き、これは無駄のない筋肉を手にしたスピード系の細マッチョ。ラッシュグレーの長めの髪にも驚いたが、それ以上に驚愕したのは青い瞳を持つ眼差し――。
『いいじゃんっ……、俺っ』
おいっ、暇人ども。残念だがお主らとはここでさらばじゃ。これまで無駄な筋肉馬鹿のブサイク中年だった故の、人生を諦めた変態男を演じていたが、もはやその必要は無い。これからはイケメン男子の物語となるのじゃ。
『速い話が、お主らの様な変態暇人が友達にいると分かると……、うんっ、よく考えてもみろっ、既にレベル4だぞっ! 何度も途中離脱を伝えたのに、ここまでついてくる変態はきっと俺様以上に変態の筈だ』
「がぁわははははっ、何をもぞもぞ話しておる」
戦国武将は差し出した右手をさらに伸ばすと、俺様の手を力強く握り返し言葉を放つ。
「我は勇者の神――、大和である。
ヨロシク、エロ神殿!」
「えっ……、
うん??
エロ神――!?」
どうやらまだ……、お主らと冒険を共にする必要がありそうじゃ……。
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