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味方であるはずの兵士を殺害した俺は、この国では殺人犯。
任務遂行中であるとはいえ逃げる術はない。
『いや……、
待て……、
よく考えるとこの事実を知る者は、目の前の異世界の連中。こいつらと共に、何の未練などないこの世界を去り俺も異世界に――』
俺は、彼らと共に異世界への入口、ブラックホールへと身を投じる決断をした。
「ジルトとルシファと言ったな。俺の背後からついてこい、閉ざされようとする入口近くまで連れて行ってやる。必ずお前達を異世界へと戻す代わりに条件が三つある」
彼らは何でも承諾する様な面持ちで懸命に聞き耳を立てる。
「一つ目は、この俺を異世界へと連れて行く事」
ジルトは迷うことなく大きく頷く。
「二つ目は、迂闊だった……、目の前のこいつら以外に俺の殺人の犯行を知る者がいた。くそっ! やむを得ない、今この物語を読んでいる暇人、そうお前の事だ! 異世界へと共に連れて行くぞっ」
ジルトは首を傾げていたが、事態を重んじ深い詮索はせず再び頷く。
「兵士様、お急ぎくだされ。私の魔力もそろそろ限界、最後の望みとは?」
ジルトとルシファ真剣な眼差しを向ける。
『最後は……、万一この計画が失敗すると、俺は恐らく殺されるだろう。仲間を裏切り殺害、魔物を含めた貴様らを逃がそうとした裏切り行為は決して許される事ではない』
「……」
「最後に……、
……、
ルシファ……」
「……はい」
「そなたのパンツを見せてくれ!」
「……」
「……えっ??」
一瞬にして頬を真っ赤に染めるルシファは、モジモジと指先を絡める仕草を見せる中、怒り心頭の殺意に満ちた表情を浮かべるジルトだったが、自らの魔力の限界を察したのか突然叫ぶ!
「この変態外道め! 見せるのは異世界に行ってからじゃぁ!!!」
― 交渉成立 ―
脳裏へこの言葉が浮かぶと同時に、俺はまるで別人の様に全身へとスイッチが入った。各エリアから集結した多くの兵士が銃口を向けるブラックホール。その大きさは我が家のトイレの入口ほどに小さくなっていた。
「ジージ―ッ、至急、至急!!
こちらエリアE、突如エリアDにブラックホール出現!
無数の魔物が……、クソッ! 仲間がやられた!
レーダーに反応しない、壊れてやがる」
応援要請無線により慌ただしく兵士たちはエリアDの茂みへと突入する中、手薄となった異世界への入口へと俺達は見事に飛び込むことに成功した。魔物は俺様の軍服で包み抱き上げ、ジルトとルシファはまさか異世界の住人だと誰が思うだろうか? 紛れ込んだ民間人だと察していたのか、見張りの兵士は口をポカンと開いたまま閉じゆくブラックホールへ発砲する事はなかった。
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