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1章:友人くらいなら
その日、私はタクシーに乗って帝国パークハイアットに向かっていた。
耳にしているヘッドホンからは知り合いのピアニストに送ってもらったCDが流れていて心地よい。これは少しでも気持ちを落ち着かせようと持ってきたものだ。
今着ているネイビーブルーのパーティードレスとそれに合わせたハイヒールは、昨日祖父から送られてきていた。
残念ながら私の胸は小さめなので、どんなドレスでもちょっぴり胸元が寂しく思うのだが、今日のドレスは比較的胸部分の空き幅が少ない。これは良いなと思ってドレスのサイズを確認すると、なんと海外の子どもサイズだった。っていうか、子どもにまで負けてるのか……と思って悲しくなったけど、子どもと同じように、私の胸は発展途上と言うことにしておいた。
どちらにしても胸の大きさなど、服の着こなし以外に関係ない。必要な際には、パッドをたくさん詰めよう、と決意する。
それはさておき、私がそんなドレスを着て、極力気持ちを落ち着かせながら向かっている先は、『白鳥恭三ホールインワン祝賀記念会』などという、まったくもってお金持ちらしいあまり意味のない名前のついたパーティーだ。
各グループ会社社長や会長の冠のつく祝賀記念パーティーは年に10回ほど催されているが、その実、会社の社長や幹部たちが集まり、仕事についてのあれやこれやを前もって話をつけておくような場と言うことは、幹部ではない私でもなんとなく知っていた。
本来ならそんなものは、副社長の兄か、研究所所長のもう一人の兄に任せたいところだが、この『白鳥』ホールディングスのパーティーには、私は半ば強制的に参加させられているのだ。
―――それもそのはず。
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