1章:友人くらいなら

4/13
前へ
/228ページ
次へ
 その時。 「そらさん」  ピシリと怒ったような声が聞こえて、声の聞こえた方を見ると、いつも通りのダークグレーのスーツに身を包んだ灰谷が、シルバーフレームの眼鏡の下の冷たい目で私の方を睨んでいた。そして、さっと私の前に出ると、 「白鳥副社長、申し訳ありません」 と90度に頭を下げる。  それを見ても、私自身はと言うとまったく反省なんてしていなかった。あら、綺麗なお辞儀ね。私にも一度してほしいものだわ、なんて思っていた。  ちなみに、灰谷は兄の秘書で、私以外の人間には非常に礼儀正しい。私以外には、だ。 そんな灰谷に白鳥さんは笑った。 「気にしないで。すぐに落とせない女性ほど、余計に燃えるタイプだから」 (勝手に燃えないでくれ……)  そう思ってすっと目を細めた。  この白鳥ホールディングス・白鳥副社長は、なぜか私の婚約者候補に立候補し、勝手に燃えているらしい。非常に迷惑極まりないので、至急鎮火していただきたい。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加