1章:友人くらいなら

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 私は周りを見渡し、灰谷に聞く。 「今日も篠崎先生はいらっしゃらないの?」 「篠崎先生? どうして彼が来ると?」 「だって、あの人も旧財閥家の出身でしょう」 「あの方はこういうものには無関心ですから」 「そうだけど」  もしかしたら、と言うこともあるでしょう?  そう思っていると、灰谷はじっとこちらを見ていた。その目線になんとなく居心地が悪くなる。 「篠崎先生、ですか……。そろそろ諦められた方がいいのでは」 「か、関係ないでしょ!」  思わず声が大きくなってしまい、それを誤魔化すために咳祓いを一つした。すると、灰谷ははぁ、とあからさまにため息をつく。そして、 「なぜ会長は急にそらさんに婚約者を勧めだしたのか考えなかったのですか。しかもお父様もお兄様たちまでもが反対されなかったなんて、何かあると考えるのが普通でしょう」 とはっきりとした声で言ったのだった。
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