蛇のように

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 シャワーも浴びずに、ベッドになだれ込む。なだれ込んだ状態で、背中のファスナーを開くのは難しかった。彼は器用に私のワンピースを脱がせて、裸にした。奥手に見えるのに、手慣れている。そのギャップがいいと思った。彼の身体は痩せているけれどほどよく筋肉がついていて、触れると気持ちがいい。胸にキスをすると、ぴくりと震える。  細かい作業をする繊細な指先が、私の肌の上を滑っていく。小さな小さなねじ、歯車、ぜんまい。そんなものを扱う指先。私自身が時計になったような気がする。十本の指が、不思議に動く。胸を、肩を、背中を、腰を這う。舌で胸に触れられると、全身ががくりと跳ねた。夫に触れられても感じなかったのに、ひどく身体が熱い。  指先が、身体の真ん中に到達する。触れているのに、触れていない。やんわりとゆっくりと行き来する。目が開けない。息ができない。背筋がしなる。ねじれるように、ぐるりと。どうしていつまでもそこでうろうろしているのか、私にはわからない。腰を動かすと、指が逃げていく。生意気な指先。小賢しい。  大きく音が響いている。聞いたこともない、湿り気に溢れた音。逃げようとすると、腰を押さえられる。逃げているのは彼なのか、私なのか。私だったのかも、しれない。  閉じられていた門を、こじ開けられる。少しずつ、じわじわと押し開かれる。濡れた生物がぬるりと押し入ってくるような感触で、息が止まった。決して言葉を発したくなかった。発するのは意味のない声だけ。名前も呼ばず、感情も語らない。彼もまた、なにも言葉はない。私の時計が狂っていく。時針も分針も猛烈なスピードで、でたらめに回り始める。  好きなわけではない。恋はしていない。愛しているわけでもない。なんとなく、情が移っただけの存在。だから本当は、オーバーホールだなんて思ってはいなかった。開いて、点検して、回路をつないで、ねじを差し込んで。霞を食って生きてきた私の身体の門を、押し開くなんて。押し開いて、入ってくるなんて。
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