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第一章 It's a little sudden, and came like a storm 01
目の前に広がる風景は、いつか見たモネの絵画のようだった。
一帯を彩る若葉の色。どこまでも続く石堀、細くなぞる小川。透明な疎水は新緑を目にも鮮やかに映しだす。
鏡映しの世界。
木陰にて、鮮烈さを残した瞼を下ろせば聞こえる、川のせせらぎ。
初めての、京都。
田辺たちと別れ、一人歩く、哲学の道。
哲学という言葉に感化されつつ、噛みしめる孤独と静寂。
たまにはこんなのも悪くない。
銀閣寺から遠のくごとに人は減って、僕は少し、ほっとした。
声をかけられるのはちょっと……勘弁して欲しかった。やっかまれるのはめんどくさい。
僕は単に修学旅行で来ている。女の子漁りはもう辞めたんだ。
空を見上げた。遠く、透き通った青。
『忘れんといて。あたしと見たこの空のこと。空はどこに行ってもずぅっと続いてるんよ』
戸倉朱里(とくら あかり)の声が聞こえてきた。
一年半もの月日が流れたっていうのに、僕の時間はあのときから止まっている。
わずかな間でも愛すことが出来た彼女を失ったあと、僕は誰にも心が動かない。乾いた欲望を抱えるただの抜け殻だ。
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