足るを知る

メール 件名「心外です！」

　嘘だなんて、心外です！
　博人と私は本当に付き合っていたんですよ？ずっと好きだったけど、釣り合わないと思って言い出せなかったって、告白されて驚いたのを覚えています。でももう、今更そんなことを言っても意味がないですね。15年前のことですし。私自身が真実を知っていればそれで良し、と思うことにします。

　あと、玲於奈ちゃんのことも見下してなんかいません！玲於奈ちゃんは私とは全然違うタイプだから、仲良くなってお互い高め合えればいいなって思っていたんです。

　環境とか考え方が全然違う友達がいるって大事なことだと思うのです。私の周りには、私と似たような大学を出て似たような会社に就職したような人達しかいないから。そういう人たちで固まっていると、どうしても視野が狭くなってしまいますよね。私は、広い視野で世界を見ていたいのです。学歴や収入だけが人間の価値を決めるのではないことも、分かっているつもりです。でも残念ながら、それがちゃんと分かっている人って案外少ないんですよね。

　上司にそういう話をしたら、若いのにそんな考え方が出来るのは珍しいって驚かれたことがあります。

　本当は直接会って話せれば、もっと分かってもらえるんだけど、残念です。

　そういえば、昨日同窓会の名簿が送られてきました。玲於奈ちゃんのところにも届きましたか？この個人情報にセンシティブな時代に、住所氏名電話番号全部載せるなんて、驚きですよね。思わず、笑っちゃいました。

　ちらっと見たんですが、玲於奈ちゃんは川越に住んでいるんですね。菓子屋横丁って行ったことありますか？何年か前に当時付き合っていた人と行ったことがあるんですが、レトロな雰囲気でとても良かったです。東京は本当に土地が高いから、住むにはあまり適していないのです。

　そうそう、土地と言えば、先日、彼とマンションを見に行ったんです。
もし結婚して子供が出来たら、100平米は欲しいよねって言ってたら、やっぱりとんでもなく高額なマンションしかなくて。彼が渋るので、そうしたら私が頭金出すよ！なんて、啖呵を切っちゃいました(笑)。こういう時、働いて稼いできてよかったなって思います。

　それにしても、人前で啖呵を切るなんて、自分がまるで玲於奈ちゃんになったみたいで可笑しかったです。言いたいことをはっきり言うのってとてもすっきりするんですね。

　彼も最後には私の勢いに負けて、渋々ながら手続きを進めてくれることになりました。お金だけポンと出してあとは彼に手続きさせるなんて、私も随分と図太くなったもんだなんて、笑っちゃいました。女が強くなりすぎるのも困ったものですね。

　とりあえず、引っ越したら是非新居に遊びに来てくださいね。

　では、また。

　　　　　　　　　　　　　　　小春