299人が本棚に入れています
本棚に追加
僕が彼女を知るほど、彼女も僕を知ろうとしてくれる。育ちは全く違うけれども、それが互いを刺激しあえるいい関係だと思った。
そんな穏やかな生活をおくっているうちに、唸るように暑い夏が過ぎ、ほんのり人肌が恋しくなる秋が過ぎ――
そして、雪のチラつく冬がやってきた。
幸せに浸っていた僕は、こにきてようやく大切なことを思いだす――。
「日本へ帰る⋯⋯?」
その頃、実家の保有するマンションへ移り住んでいた僕の部屋で、結がコーヒーに落としていた顔を上げた。
「あぁ、もとより1年間の留学だったから。だから、来月いっぱいでこっちでの生活はおしまいなんだ」
長いと思っていた一年は、あっという間だった。
帰りたくないと思うのは、まだ結と訪れていない観光地が沢山あるからだろう。
深いことは何ひとつ考えていなかった。
だって僕は――
「⋯⋯結?」
そのときだった。カップを持ったまま固まっていた彼女の瞳から、ホロリと雫がこぼれ落ちた。
ハッと息を飲んだ。
「⋯⋯もう、一緒にいれないの?」
僕は、言葉足らずのようだった。
しかし同時に、溢れ出る雫がとても美しく目を奪われてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!