残念御曹司の最初で最後の恋物語

12/18
前へ
/18ページ
次へ
僕が彼女を知るほど、彼女も僕を知ろうとしてくれる。育ちは全く違うけれども、それが互いを刺激しあえるいい関係だと思った。 そんな穏やかな生活をおくっているうちに、唸るように暑い夏が過ぎ、ほんのり人肌が恋しくなる秋が過ぎ―― そして、雪のチラつく冬がやってきた。 幸せに浸っていた僕は、こにきてようやく大切なことを思いだす――。 「日本へ帰る⋯⋯?」 その頃、実家の保有するマンションへ移り住んでいた僕の部屋で、結がコーヒーに落としていた顔を上げた。 「あぁ、もとより1年間の留学だったから。だから、来月いっぱいでこっちでの生活はおしまいなんだ」 長いと思っていた一年は、あっという間だった。 帰りたくないと思うのは、まだ結と訪れていない観光地が沢山あるからだろう。 深いことは何ひとつ考えていなかった。 だって僕は―― 「⋯⋯結?」 そのときだった。カップを持ったまま固まっていた彼女の瞳から、ホロリと雫がこぼれ落ちた。 ハッと息を飲んだ。 「⋯⋯もう、一緒にいれないの?」 僕は、言葉足らずのようだった。 しかし同時に、溢れ出る雫がとても美しく目を奪われてしまった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

299人が本棚に入れています
本棚に追加