残念御曹司の最初で最後の恋物語

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彼女とは、車を走らせ10分ほどの場所で待ち合わせていた。 今年の残暑は厳しい。暑い日差しの中、けたはたましくセミが鳴く。 僕は目的地を目指し、長らく続く坂を「はぁ、はぁ」と息を切らせながら、なんとか登る。 その脇をチョロチョロと孫が走り回り、口元を緩めながら懐かしむ。 昔はああやって、結と二人で結花を追ったものだ。 慣れたルート迷わず進み、やがて姿を現した彼女の前にようやく膝をついた。 「⋯⋯結、久しぶりになってしまったな」 もう、君の笑顔を見れなくなって、どのくらいの年月がすぎだろう。 お線香に火をつけて、小さな墓石の前で、みんなで手を合わせる。 結婚して八年目のころ、もうひとりの子供を望んでいた僕たちに襲いかかったのは、彼女の病だった。 『大丈夫よ、すぐ元気になるから』 病室のベッドで彼女はニッコリ微笑む。 しかし、それがそんな簡単に治るものではないことを僕たちは承知していた。 けれども、僕たちはそう励まし合っていないと、心が、精神が、崩壊してしまいそうな絶望の淵にいたんだ。 『大丈夫よ、一郎さん。笑って』 薬の副作用のためから、髪が少なくなってきたが、彼女の笑顔は相変わらず、ひまわりの花のようだった。 しかし、日を追って小さくなっていく君を見ていられず、泣いてしまうのは僕だった。
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