残念御曹司の最初で最後の恋物語

8/18
前へ
/18ページ
次へ
それから十秒ほど経過したころだろうか。電話口で「ほぅ」と小さく息を吐く気配がした。 『プレゼント⋯⋯懐かしいな。父さんも母さんに“押し付けがましい”と嫌な顔をされたものだよ』 思わず僕は目をパチクリ。 そして『そうだなぁ』と感慨深そうな声が電話口に触れたあと、しばらく待機していると。 ――『気持ちだよ』と突然父は紡いだ。 「気持ち⋯⋯?」 僕は瞬時に疑問に包まれる。 それはおかしい。好意なら誰にも負けない。告白だってしているし、相手だって僕の気持ちは知っているはずだ。 しかし、同じような境遇だったという父は、「そうではない」と否定する。 それから、“とあるもの”を心を込めて贈ったところ、心を開いてくれたんだ、とヒントを与えてくれた。 『そのモノは、人によって違う。モノではないかもしれないな――』 不思議な言葉を残して、その日のやり取りは終えた。 うーむ。恋愛とは語学より難しい。 とはいえ、今までこうして悩むことがなかった僕は、人と真剣に向き合こうとしたことがなかったのだろう。 僕はこれまでの当たって砕けろ戦法を、ガラリと変えてみることにした。 そして、数日後。 父の助言が功を成したのか、ようやくデートの約束を取り付けることができた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

299人が本棚に入れています
本棚に追加