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それから十秒ほど経過したころだろうか。電話口で「ほぅ」と小さく息を吐く気配がした。
『プレゼント⋯⋯懐かしいな。父さんも母さんに“押し付けがましい”と嫌な顔をされたものだよ』
思わず僕は目をパチクリ。
そして『そうだなぁ』と感慨深そうな声が電話口に触れたあと、しばらく待機していると。
――『気持ちだよ』と突然父は紡いだ。
「気持ち⋯⋯?」
僕は瞬時に疑問に包まれる。
それはおかしい。好意なら誰にも負けない。告白だってしているし、相手だって僕の気持ちは知っているはずだ。
しかし、同じような境遇だったという父は、「そうではない」と否定する。
それから、“とあるもの”を心を込めて贈ったところ、心を開いてくれたんだ、とヒントを与えてくれた。
『そのモノは、人によって違う。モノではないかもしれないな――』
不思議な言葉を残して、その日のやり取りは終えた。
うーむ。恋愛とは語学より難しい。
とはいえ、今までこうして悩むことがなかった僕は、人と真剣に向き合こうとしたことがなかったのだろう。
僕はこれまでの当たって砕けろ戦法を、ガラリと変えてみることにした。
そして、数日後。
父の助言が功を成したのか、ようやくデートの約束を取り付けることができた。
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