299人が本棚に入れています
本棚に追加
約束の日の一時間前。僕はすでに待ち合わせ場所である大学前を右往左往していた。
「――本当に、公園で散歩なんかで良かったんだろうか。やっぱり高級レストランとかのほうが――」
全くもって、落ち着かない。
けれど、それは最初のほんのわずかのうちだけで――
「すみません、おまたせして⋯⋯」
彼女の姿を目にした途端、心配していた気持ちは一気に霧散した。
とうとう、天使がお迎えにきなすったのかと思った。
「⋯⋯どうしました?」
「あぁ、いや、本当に来てくれるとは思わなくて⋯⋯固まってしまった。嬉しくて」
それから僕たちは、大学のそばの自然公園を、会話を楽しみながらゆるやかに歩いた。
手をつなぐこともなく、ありきたりな会話を重ねるだけの。どの講義が好きだとか、苦手だとか。どの教授が人気だとか、誰がお付き合いをしているとか。
そんな、他愛もない話をするだけの散歩。
このデートは、彼女からの希望だった。
――というよりは
『何デートなら僕とデートしてもらえるだろうか?!』
最初のコメントを投稿しよう!