Last Step

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シャンプー台に横になり、温かいお湯と遼の指先が、頭皮を刺激する。 心地よい時間。 遼の手によって、女性はシンデレラとなる。 けれど…。 その時間はガラスの階段を下りるまで。 私は精一杯、残された時間を楽しんだ。 「どうだ?」 内側に巻いたヘアースタイルは、若返って見える。 とても自分では思いつかないだろう。 「うん、ありがとう」 「お疲れ様でした」 椅子を回され、私は立ち上がる。 お会計を済ませ、あとは階段を下るだけ。 「ありがとう」 振り返り、遼に向かって手を差し出す。 「こちらこそ」 私の手を、遼が強く握った。 階段を下りる間、遼は頭を深々と下げるんだ。 それがお客様に対しての気持ちだから。 それじゃ、と、階段をおりかける。 が。 降りられない。 なぜなら。 遼が、手を離してくれないからだ。 「俺とお前は、お客と美容師じゃない」 「えっ?」 「俺も一緒に階段を降りる」 遼に手を引かれ、シンデレラの階段を降りた。 その途中。
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