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「よぉ、心愛。…おれらのこと、覚えてる?」
森心愛が閑散としている地元の神社に来てしばらくしてから、うしろから声をかけられた。突然、声をかけられた心愛は、とても驚きながらもゆっくりと振り返る。うしろにいたのは、数人の青年。
「えっと…」
「えー、覚えてないの?残念だなぁ、小学中学と一緒に遊んでやったじゃん」
戸惑う心愛に、彼らは面白そうに笑う。彼らの言葉と笑う顔を見た途端、心愛の頭の中で、昔の思い出が鮮明に蘇り始めた。
「お、お前ら…」
思い出した心愛は、目を見開いて彼らを見つめた。小学校から中学校まで、ずっとクラスメイトだった男子たちだ。
そして心愛は、彼らにいつもいじめられていた。原因は、心愛という名前のせいだった。そのころの心愛は、おとなしくて引っ込み思案で、いじめの絶好の標的だった。
「アイドルの心愛くんに、ここで会えると思ってなかったなぁ」
「話せなかったきみがアイドルになって、ファンのみんなにちやほやされてるなんて…」
「名前で売ってんでしょ。かわいらしい名前でよかったな、心愛くん?」
彼らは、笑いながら口々に話す。小学校のころから彼らは、嫌がらせるかのようにわざと心愛の名前を下で呼ぶ。そんな彼らに、いつも心愛はなにも言えなかった。
心愛はいつの間にか、彼らに圧され座り込んでいた。そして、いじめられていたころの光景を思い出し、恐怖で震えることしかできずにいた。
「そんな怯えることないだろ?」
「それでも男か、ってな」
「今日は、久しぶりに遊ぶ?」
ずっと笑っている彼らを見て、『このままだと、またいじめられる』と思った心愛は、震える足で立ち上がり、無我夢中で駆け出した。
「あっ、待てよっ!」
彼らは驚いて叫んでいたが、心愛を追いかけてはこなかった。
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