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アイドルグループ・Wishbirdのリーダーである柳沼伊織は、病院の廊下にいた。腕時計と目の前の部屋を交互に見てから、ため息をついた。
心愛と同じようにオフだった伊織は、街を歩いていて偶然、心愛に会った。しかし、心愛の様子がおかしくて話を聞くと、声が出せなくなったというのだ。それで、検査を受けることになり、いまに至る。
伊織が色々考えていると、手に持っていたスマホが鳴った。ほかのメンバーである岩崎ほたると落合想真からだった。
「…今日、ほたるはラジオ収録で、想真はドラマの撮影…。ちょうど終わったほたるはいまから来れるけど、想真は遠くで撮影だって言ってたから今日は無理、か…」
スマホ画面を確認し、ため息交じりに呟いた伊織がスマホをポケットに仕舞うと同時に、部屋の戸が開き、心愛が出てきた。
「心愛!どうだ!?」
慌てる伊織に心愛は一瞬驚いたが、困ったように笑って見せた。そして、取り出したメモ帳になにか書いて伊織に見せた。
『心因性失声症だって…』
「…心因性失声症?心因性ってことは、原因はストレスとかか?」
初めて聞く症状に伊織は、言い返していた。それに、心愛は頷く。
「昨日までは、普通に声出てたよな。……今日会ったとき、助けを求めるような表情をしてたよな?おれに会う前に、なにかあったのか?」
心配だった伊織は、心愛を問い詰めるような勢いで話していた。
『別になにもなかったよ』
「うそだろ」
『ほんとだって』
「でも、昨日までは……っ、おい、心愛っ!」
慌てながら言いかける伊織に、心愛は殴り書きをしたメモ帳を投げつけ、その場から駆け出していた。一人残された伊織は、床に落ちたメモ帳を拾い上げた。
『うっとうしんだよ、一人にしてくれよ!』
メモ帳には、そう書かれていた。その文を見つめながら、伊織はため息をまたついていた。
「…くそっ、おれはなにしてんだ。あいつを助けたかったのに、逆に傷つけた…」
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