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ある日、心愛は外出許可をもらい、また神社に来ていた。恐怖もあったが、なぜかこの神社が一番落ち着く場所だった。
「…もしかして、森くん?」
参拝していた心愛のうしろから声がしてとても驚いた心愛だったが、振り返るとそこには以前の青年たちではない別の青年が目を見開いて立っていた。
『神楽くん…?』
心愛は、彼のことはすぐに思い出せた。中学校だけ一緒だった、唯一心愛がいじめられていたことを知っている佐藤神楽という青年だ。
「お、覚えててくれたんだ…」
メモ帳を見せる心愛に驚きながらも、神楽は嬉しそうに微笑む。
「……聞いていいのかわからないけど、なにかあった?活動休止中だって聞いたから…」
神楽は近くにあったベンチに座り、心配そうな表情を心愛にむける。一瞬、戸惑った心愛だったが、神楽のとなりに座って、この神社であったできごとといまの状況を伝えた。
「……そっか。森くん、あいつらに会ったんだ。そのせいで、声が出なくなった…」
心愛が全部メモ帳に書き終えて見せてから、神楽は考え込み始めた。『伝えなきゃよかったかな』と落ち込む心愛だったが、神楽はすぐに微笑んだ。
「森くんは、もう歌を歌いたくない?」
微笑んだまま聞いてくる神楽に、心愛は目を見開いていた。心愛は、すぐに首を振った。昔から心愛は、歌が大好きなのだ。
「それなら、…森くんが歌うことを嫌いになってないなら、きっと声も出るよ」
そう言って神楽は歌い始めた。Wishbirdの曲だった。『中学生のころ、よく神楽と一緒に歌ってたな』と思い出しながら、心愛も口ずさんでいた。
最後のサビに入ると、心愛のきれいな歌声が響いていた。
「出た!?」
心愛の声が出たことに驚いた二人は口をそろえて叫び、笑い合っていた。
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