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1. 身震い
寺の広間前には間口の小ささにそぐわないほどの、背の高い男が入口に立っている。こじんまりとした空間とは対照的な、かなり威圧的な第一印象だ。寡黙なのに目立つ。
この場合は悪目立ちという例えが相応しいかもしれない。
寺の広間では静寂の中、住職の読経の声だけが大きく響き渡る。むせるような線香の匂いに多くの人々が塗れている。時折幼子のぐずる声が混じるが、そちらに気をとられている場合などないと淀みなく読経はすすむ。
今、寺では葬儀の真っ最中だ。そしてこの背の高い男はしきりに時計に目をやる。心配しているのは進行の遅れのみだった。
彼、矢野亮介は職務のただ中だ。彼の職は葬儀屋、寺はまごうことなき彼の職場の一部だった。
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