プロローグ

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プロローグ

 朝一番、リビングに入って香る父の飲むコーヒーのあの匂いが嫌い。  学校の職員室に漂うコーヒーの匂いが嫌い。  無駄にカッコつけて苦いコーヒーを口に含む人が嫌い。  私は大人が嫌い。    私はわたしが嫌い。    そんな私は、あの夏初めての恋をする。  「いらっしゃい、いつものでいい?ミルク二つにお砂糖は一つだったよね?」  あの人の柔らかい声、低いけどしっかり耳に入る声。あの人から香る大嫌いだったはずのコーヒーの香り。  あの夏からずっとずっと大好きだったのに。  もう一度。  「いつものでいい?」  って聞いてください。  「彩綾(さあや)」  って呼んでください。  もう一度。もう一度。  私にコーヒーを淹れて欲しい。
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