お母さんは二人

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「わたしはねぇ、う~んと甘やかそうと思ってるの。だって男の子よ男の子。絶対可愛いに決まってるよー」  視線を落とし、柔らかな手付きで自分の腹部をなでるフユミ。そのお腹は、線の細い彼女に似つかわしくないほどに大きく膨れ、今にもはち切れそうだった。 「別に性別は関係ないと思うけど」  長いグラスに刺さったストローを指でもてあそびながらカナエはつぶやく。しかし彼女のお腹もフユミほどではないものの芽吹くような膨らみを帯びていた。 「でもさぁ。やっぱり異性の親って子供にとって特別な存在だと思うのよ。将来の好みにも影響するっていうでしょお?」  カナエ、浅く座ってお腹をなでる。 「アナタってホントお気楽ね。子供を育てるってそんな良いことばかりじゃないわよ」 「えーそうかなぁあ? それじゃぁカナエさんはどうなのよー。何か決めてることあるう?」 「そうね。私は絶対に甘やかさないかしら。ちゃんと自立できる大人になることが一番よ」 「わー厳しー」  明るい声で明るくなく棒読みをフユミはする。  それを別段気にした風もなくカナエは「当然よ」とグラスを口へ運んだ。  丸テーブルに向かい合わせて座る二人。その間に差し込む斜陽と微かな外の喧噪。  心落ち着かせる深い色をしたウッドテイストの店内は、亜麻色のBGMに彩られ、渋いコーヒーの香りに満ちていた。  一拍ほどの間があって。 「そういえばカナエさんの予定日はいつだっけ?」 「確か二月か三月」 「ならギリギリ同学年ね。ちなみに男の子? 女の子?」 「同じ男の子よ」  わぁ奇遇、と驚くフユミを二分の一だといなすカナエ。 「将来何になって欲しいとかあるの? わたしはねぇお医者さんかなぁ」 「気が早いわよ。まぁバカにはしたくないけど何になるかはこの子の人生よ好きにすれば良いわ」 「そういうとこドライだよねぇ」 「そうかしら?」  クスクスと小気味よく笑うフユミにカナエは続ける。 「一つ、生む前に約束をしておきましょう」 「やくそくぅ?」 「ええ。お互い女遊びをするような男に育てないって」 「あっそれ同感! でもでもやっぱり血は争えないって言うじゃない?」 「ならこの後病院で去勢するってのはどうかしら?」 「サンセー!サンセー!」  スゥッと消える笑顔。  一瞬にして固まる空気。  まるでロボットのような正確な動作でゆっくりと、ゆっくりとこちらへ首を傾げる二人。 「で、どっちの父親になるのか決めたかしら?」 「で、どっちの父親になるのかはっきりして」  氷のように冷たく、ナイフのように尖った視線が僕の心臓を射貫き、ショック死しそうになった。 「あ……いや、そのー……」
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