razbliuto

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>>ねえ >>たすけて >>もうむり  彼女から送られてきたメッセージに気付いたのはたっぷり10時間の睡眠をとった後のことだった。私が寝た直後にこのメッセージが送られてきたようだ。慌てて返信したものの2時間たっても音沙汰無く、しぶしぶ私は重い腰を上げて彼女の家に合鍵とスマホ、財布と必要最低限のものを持って出かけた。  彼女のマンションは私のアパートのすぐ側、というよりほぼ隣にある。そもそも私のアパートはマンションのすぐ側だからという理由で彼女から住むことを義務付けられているものだった、大学から近いので文句こそ無いが。  徒歩一分もかからずに着くそこは、まあまあに立派なマンションだ。家賃は彼氏持ちらしい。贅沢だといつものことながら思いつつ自動ドアをくぐると、冷房の涼しい風が体を冷やす。目と鼻の先だというのに、ここまで暑いと冷房のありがたみが改めて身に染みる。オートロックのドアを開けてエレベーターで2階まで行けば、そこから1番近いドアが彼女の部屋だ。 「みなみ〜、いる〜?」  玄関先から大声を出す。するとギィ、と廊下の先のリビングへ続くドアが開いた。 「お、生きてるか?」 「…しんでるぅ」  開いたドアから彼女、みなみが出てくることは無く、気の抜けた返事だけが聞こえた。入るよ、と一言声をかけてお邪魔する。大きなリビングには床に強めのお酒の缶が大量に転がっていた。 「うわ、お前これ全部飲んだの?」 「あー、飲んだよ、うわ、こんなに飲んだっけ?」 「二日酔いしてない?大丈夫?」 「頭痛い。痛み止めちょうだい」  テレビ台に散乱してる頭痛薬を近くにあった水のペットボトルとともに渡す。 「ねえ彼氏さんいないの?というか何があったの」 「別れたよ、もう本当に大っ嫌い」  またか。  というのもみなみとその彼氏、付き合って早5年。別れる別れる詐欺は数知れず、である。いや、仲を私が取り持ってるだけだろうか。少なくとも今わかるのはそんなに心配しなくてもいいということだけだ。私はいつも通り困ったような顔をして口を開く。 「何があったの?」  彼女の愚痴は昼過ぎに来たにもかかわらず深夜25時まで続いた。彼氏は友達の家に泊まっているらしい。それにしても私の大学が通信制だからと言って私のことを都合よく考えすぎではないか。自分のお人好し加減にもほとほと呆れるが。  そして最後に彼女は私にこう言うのだろう。  ねえ、 「ねえ、佐藤。私の事好き?」  それに私は笑顔で答える。 「好きだよ、友達として。絶対に裏切らないから」  みなみは笑う。その笑顔に、私は騙しているような後ろめたさと安堵感、そして微かな高揚を覚えた。 「だよね。お前はわたしを裏切らないよね」  彼女のことを心から愛せなくなったのはいつからだっただろう。  嘘に振り回されたときか?  私を愛してくれないと気付いたときか?  彼氏が出来たときか?  付き合っていた訳でもないのに、いつの間にか私は彼女を愛して、そして愛せなくなった。愛せないのは、過去に彼女を愛していた私への裏切りでは無いだろうか。  そんなわけないのに。人は前に進み続けるものだし、進み続けなければならないのに、私はそう考えるのをやめられない。  そして自分を裏切らないため、自己保身に走って醜い嘘と笑顔で彼女を騙す。 「裏切らないよ、愛してるからね」  本当に彼女を愛してるの? その疑問を振り払うように彼女に笑いかけた。  それに対して、みなみも応えるように笑顔をふくらませた。  愛していた頃の彼女と自分が、なんだか淡く遠いものに思えた。
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