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ちらっと、顔を母に向けたら、意外だった。
いつもと同じなのだ。
おいしものを食べて、うれしい顔をする子供みたいに、ウキウキしている。
―ん?
ヒカリはどういう顔をしたらいいか、分からない。
―どうしてだろう? ぱにっく 、にならないのかな?
と、内心ドキドキしながらテレビに目をやり続ける。
「こんにちは、神島校長先生。今日はありがとうございました。」
「ええ、こんにちは。」
―あ、校長先生だ。
少しおなか回りが太っていて、頭は剥げている、いつも見慣れた神島校長先生が映った。
「では、スタジオの○○さん、お願いします。」
と、場面が変り、こぎれいなスタジオがテレビに映った。
「はい、神島校長先生、ありがとうございました。」
最初に映っていた、ハンサムな男性キャスターがそう言う。
「ええ、それでは、全国の天気予防です。」
―ん⁉
思わず箸を茶碗に落としそうになった。
「おお、ヒカリ、ヒカリ。」
と、朗らかに、どこぞの貴婦人を思わせるような口調で母が娘に声をかける。
が、ヒカリはそんな状況ではない。
―どこにも映ってない?
サッとリモコンでテレビのチャンネルを変える。
―このちゃんねる、は?
「さあ、さあー今回のお宝はー。」
いつもお昼やっている、家の骨とう品を鑑定する番組である。
―これは?
「さあ、今日も冒険の始まり~。」
いつもヒカリが見ているテレビアニメだ。
―これも……
「ヒカリ。」
そこへ、パチパチと叩くようにリモコンのチャンネルボタンを押す指に、柔らかくも温かい手が、ヒカリの指をいたわるように被さった。
「だいじょうぶ、大丈夫だから。」
その声は、やさしく、慈愛にみちていたが、寂しげな声だった。
その後の夕食は静かなものだった。お互い一言もしゃべらなかったわけではなかったがー
「今日は友達は?」
「―みんな、元気だった。」
と、こんな感じの質問を、瑠美がした程度である。
やがてそんな夕飯も終わり、ヒカリはイソイソと、恥ずかしさと緊張とでいつも話せることも簡単に話せないまま、食器を瑠美が洗うのを手伝い終わると、自分の部屋にかけていった。もちろん、その時もなにも話せなかったがー
しばらくすると、学習机に脚をかけて、天井を見上げていた。
―な~んにも、テレビはなかったー
あれだけの騒ぎーめっちゃくちゃ気持ち悪かった蛇男、ピカピカに光った、天使姿の先生、そして、さらに光って、翼の多かったお母さんーこんな人たちがいて、騒ぎにならないのはオカシイということくらい、ヒカリにも分かっていた。
じゃーなぜ、テレビじゃなんにもなかったんだろう?
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