第4章 ヒカリと誘拐魔

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ちらっと、顔を母に向けたら、意外だった。  いつもと同じなのだ。  おいしものを食べて、うれしい顔をする子供みたいに、ウキウキしている。 ―ん?  ヒカリはどういう顔をしたらいいか、分からない。 ―どうしてだろう? ぱにっく 、にならないのかな?  と、内心ドキドキしながらテレビに目をやり続ける。 「こんにちは、神島校長先生。今日はありがとうございました。」 「ええ、こんにちは。」 ―あ、校長先生だ。  少しおなか回りが太っていて、頭は剥げている、いつも見慣れた神島校長先生が映った。 「では、スタジオの○○さん、お願いします。」 と、場面が変り、こぎれいなスタジオがテレビに映った。 「はい、神島校長先生、ありがとうございました。」 最初に映っていた、ハンサムな男性キャスターがそう言う。 「ええ、それでは、全国の天気予防です。」 ―ん⁉  思わず箸を茶碗に落としそうになった。 「おお、ヒカリ、ヒカリ。」 と、朗らかに、どこぞの貴婦人を思わせるような口調で母が娘に声をかける。  が、ヒカリはそんな状況ではない。 ―どこにも映ってない?  サッとリモコンでテレビのチャンネルを変える。 ―このちゃんねる、は? 「さあ、さあー今回のお宝はー。」  いつもお昼やっている、家の骨とう品を鑑定する番組である。 ―これは? 「さあ、今日も冒険の始まり~。」  いつもヒカリが見ているテレビアニメだ。 ―これも…… 「ヒカリ。」 そこへ、パチパチと叩くようにリモコンのチャンネルボタンを押す指に、柔らかくも温かい手が、ヒカリの指をいたわるように被さった。 「だいじょうぶ、大丈夫だから。」 その声は、やさしく、慈愛にみちていたが、寂しげな声だった。  その後の夕食は静かなものだった。お互い一言もしゃべらなかったわけではなかったがー 「今日は友達は?」 「―みんな、元気だった。」 と、こんな感じの質問を、瑠美がした程度である。 やがてそんな夕飯も終わり、ヒカリはイソイソと、恥ずかしさと緊張とでいつも話せることも簡単に話せないまま、食器を瑠美が洗うのを手伝い終わると、自分の部屋にかけていった。もちろん、その時もなにも話せなかったがー  しばらくすると、学習机に脚をかけて、天井を見上げていた。 ―な~んにも、テレビはなかったー  あれだけの騒ぎーめっちゃくちゃ気持ち悪かった蛇男、ピカピカに光った、天使姿の先生、そして、さらに光って、翼の多かったお母さんーこんな人たちがいて、騒ぎにならないのはオカシイということくらい、ヒカリにも分かっていた。  じゃーなぜ、テレビじゃなんにもなかったんだろう?
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