本当のこと

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「部活のことを覚えてる?」 今日は出会った頃の話をしようか。といっても、最初の何年かは名前を知っているだけのただの同級生だった。でも、あの件で一気に意識したんだよなあ。僕の方は、だけど。 野球部の仲間で佐藤という奴がいたよね。万年ベンチウォーマーだったけど、努力家で練習の虫だった。朝練も誰より早く来て、休み時間もお昼も、いつもバットを振るか壁にボールを投げるかしていた。 それがあの雨の日。使われていない旧校舎で練習していて、割っちゃった。廊下の角の窓ガラス。僕は見ていたんだけど、あいつ、しらばっくれて逃げちゃって。でも気持ちはわかるからさ。僕も同じように秘密練習に継ぐ秘密練習のおかげでレギュラーに昇格したばっかりだったから。 割ったのは僕です、って先生に言いに行った。さすがに勇気が要ったけど、マネージャーの君が見送ってくれた。職員室を出たら待っていてくれた。そのときから君は僕にとって特別な人になった。 君の方はどうだったのかな。それはまだ聞いてなかった。 実香子は顔を上げて僕を見た。そしてニッコリとうなずいた。「私も同じよ」っていう意味かな。
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