永遠を舐めて死ぬ

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   その昔、私は大学時代マドンナと呼ばれていた。  今では似ても似つかない嘘みたいな黄金時代。モテ期は人生に三度訪れるというが、それきり訪れなかったところをみるとやはりその瞬間私は運を使い果たしていた。どうも人と比べてそういう使い道に違いがあるらしい。  テニスサークルで一番の人気を博していた一つ年上の彼、のちの夫、のちの元旦那となる彼と、その横に並んでも引けを取らない容姿を持て余していた。容姿に恵まれた、これもまた運の使い所なのかもしれない。今年で42歳になったけれど、鏡に映る自分の姿は、自分で言うのもなんだがまだ若い相手を誑かせるな、という自負があった。しないけれど。それに皺だって年相応にしっかりある。烏滸がましい妄想だ。  実際付き合っているのに後輩や先輩からもよく誘われたし、それでいて私自身は人見知りで人と付き合うのが苦手で本当に主人のそばに引っ付いているだけだった。今思えばこのがらんどうのどこに人が惹かれたのかわからない。私は不幸を呼び込む。旦那が最たる例だ。息子もこの血を分けてしまった、恐らくその被害者。  可愛いね、綺麗です。どこか飲みに行きませんか、ちょっとだけ。  そんな声をなんとかかわしながら、ふいに視界の端に映る青年に目が止まる。知っている。二つ年下の後輩で、サークルに入るなり気鋭の新人と、そして話のユーモアがあることから一躍人気を博していたその彼の名前。  その頃、こんな噂があった。  その、彼。  その彼と関係を持った女性は、身の不幸を払拭出来ると。  うそだ、と笑った。いいえ先輩、彼はほんとうです。長らく抱えていた病が彼と出逢って消え去ったんです、これは医者にかかるより成果が期待出来ますよ。そう、後輩は言っていた。嘘みたいな、本当の話。  彼の名前、名前… 〝夏バテすか、先輩〟 「………虹島(にびしま)くん」  
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