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#002.気持ちは全部。
会社からの帰りの電車。運良く空席に有りつけて、どっと腰を下ろす。
ネクタイを緩め鞄から読みかけの単行本を取り出し、しばし読み入る……
どれくらいの駅をやり過ごしただろうか。ふと視線を上げると、目の前に上品そうな和装で白髪のお婆さんが立っている。
「あの…… どうぞ」
席を立ち、お婆さんに席を譲ろうとしたら。
「ありがとうございます。でも、いいんですよ。もうすぐ降りますから」
お年寄りの場合、膝を曲げ伸ばしすることが大変だって人もいるらしいからな。でも一度立ってしまった手前、元の席には戻りにくい。
「じゃあ…… 半分だけ」
俺がお婆さんの手を取って言うと一瞬不思議そうな表情を見せたが、すぐに笑顔になり、そしてこう言った。
「ええ。半分だけ」
微かな力ではあるものの、俺に取られた手を握り返してくれるお婆さん。
俺を見上げる、その上品そうでキュートな笑顔に俺も思わず笑顔になった。
(了)
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