19人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
#003.昭和を通り越して、もはや戦後
部長に呼び出された。
私が進めていた業務支援システムは、リリースされたばかり。どんなお褒めの言葉があるのか楽しみだ。
現在でこそ大手製造メーカーの子会社を名乗っているが、私が勤める会社は元来片田舎の零細企業でしかなかった。
血縁だか閨閥だかなんだか知らないが、ある日突然に今の地位になったらしい。
だが、やってる業務は零細企業のままだった。
系列会社から業務を依頼され、それを下請会社に流す。
たったそれだけの作業なのに事務所は始業前から電話が鳴りっぱなし。
机には書類が詰まれて、パソコンのキーボードを操作するどころかメモを取る隙間さえない。
環境が悪すぎると思い、系列会社からの業務を画面で入力できるシステムを開発、導入した。
手書きのFAXや郵送で対応していた下請会社とのやり取りも、WEB上で完結できるようにした。
そのメリットは…… 簡単に一言で言い表せるものではないが、8時間かかるものが4時間。4人がかりの作業を2人でできるようになる計算だ。
これで弊社も、ようやく昭和からの脱皮だな。
…… そう思っていた。のだが、
半分になるのは時間や人員だけではなく、それに併せて各コストも大幅に削減され電話が減った分オフィスに余裕もでき、机の書類がなくなり清潔感も出る……
はずだったのだが。
系列会社から「登録しましたよ」「メールを送りました」など、下請会社から「WEB画面の操作がわからない」などの電話が殺到し、事務所は以前より賑やかになった。
登録確認画面やメールなどもいちいちプリントアウトして確認しているため、書類の山は以前より高くなっている。
社員(作業員)から仕事(手間)を奪ってどうする。
と、部長からお叱りを受けてしまった。社員からも残業や休日出勤が減り、手当が少なくなるとのクレームも出ているらしい。
半分余った時間、半分余った人員で新しいことに挑戦しようとか、そんな考えは田舎の零細企業にはないみたいだ。
最先端の技術を導入しても扱う連中がこれじゃあな。
時代からはどんどん逆行し、昭和を通り越して、もはや戦後だな。
ここに私の居場所は、もはやないらしい。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!