はじめに

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はじめに

 四月。いつも見ている景色でさえ、春の暖かな陽気が彩りを与えていた。別に私の心はそこまで彩り豊かなほうではないのだけど、少しくらいは明るい気持ちにもなる。いつもは地面に視線が行きがちな登校中の時間でさえも、自然と視線は正面を向いてしまう。歩くときに正面を向くと背筋が伸びるから相手に好印象を与えるらしいね。どうでもいいけど。   高校一年生となり新たな高校生活に期待を膨らませていたけど、中学の延長線上を進んでいる気がして思った以上につまらなかった。一生懸命世のため人のために働いてくださっている社会人の皆様には、贅沢すぎる悩みだと思われるかもしれないけど、一介の高校生にとっては十分すぎる悩みなのではないだろうか。贅沢なのかなぁ。そんなことを考えてしまうくらいには退屈だった。  しかし別に私はやることがないというわけではなく、むしろ勉強や友達付き合いなどかなり忙しかったりする。『彩ちゃんかわいいから、彼氏なんてすぐできるよー』とか、周りはこんな言葉ばかり投げかけてくる。うれしくないわけではないんだけど、これがなかなか鬱陶しい。  自己紹介が遅れたが、私は柏城彩という。清楚を象徴するセミロングの黒髪、少し高めの身長、スレンダーなスタイル。スレンダー、ここ重要。決して胸がないわけではない。スレンダーなだけだから。さらに、中学の時は定期テストで常に三本の指に入っていたし、ここら辺では最難関といわれる八代見高校にも三位で入学した。運動も平均以上にはできる。いわゆる学年一の美少女というやつだ。自分で言っちゃうあたり、かなり頭のおかしいヤツだと思われるかもしれないけど、実力が伴っているのでノーカンで。 「部活見学ってもうすぐだよね。どこ見学する?」  とある日の休み時間、桃色のツインテールが揺れた。ついでに胸も揺れたことに対して、多少の怒りを覚えるが、許してやろう。私の寛大な心に感謝するように。ちなみに彼女は佳奈子といって、高校に入ってから最初にできた友達である。今までと同じように、私と友達となることで佳奈子自身のステータスを上げようとしているのだろうと思っていたが、そんなことはなかった。理由は簡単。佳奈子は重度の馬鹿だからだ。話すとよくわかるが、正真正銘のあほである。なんでこの高校に入れたんだろう……。 「んー、私はまだ決めてないかな。とりあえずいろいろ回ってみようとは思ってるよ。あ、でも運動部は無しかな。」 「えー、運動いいよ?やってみよーよ。青春といったら汗だよ?汗といったら運動部でしょ!」 青春=汗と連想するあたり、恋愛ドラマの見過ぎではないだろうか。現実は青春を感じる間もなくつらい練習の毎日が続くのだ。あとから振り返ってそれを青春と呼ぶのであって、本人たちがそれを感じるとしたらコンビニでアイスを買い食いしてるときくらいである。『買い食いとか、今俺たち青春してね?』とか言って千三百円しか入っていない財布からお金を払うのだ。 「まあ、見学くらいならね。」 「よーし!あーちゃん、部活見学は一緒に回ろうね。」 ちなみに『あーちゃん』というのは佳奈子が私を呼ぶときのあだ名だ。あだ名で呼ばれるのは初めてだったので、多少照れくさかったが正直かなりうれしい。  学校が終わった瞬間、私は部活動について調べるためにそそくさと家に帰る。中学のころは部活に入っていなかったので高校でも別に入らなくてもいいかなとか考えていたけど、まあこの機会に部活動というのも経験してみるのもいいのかもしれない。普段の私なら絶対にそんなことは考えないのだけど、ちょっとした気心だからね。べ、別に退屈すぎていてもたってもいられなくなったとかじゃないんだからね! 「佳奈子、私先に帰るね。」 「今からみんなでケーキ食べにいこーって話になってたんだけど、いいの?」 ケーキは嫌いじゃないんだけど、カースト上位女子と出かけるのって結構大変なんだよね……。特にすぐ恋バナになるところとかね。完璧美少女といえど、彼氏いない歴=年齢である私に何が答えられるというのだろう。言い寄ってくる男子はたくさんいるんだけど、なんか胸にズッガーンってこなかったの‼(森島先輩感)なんとなく付き合うって私できないんだよね……。お誘いを丁寧に断って、教室を後にした。  早くもグループ分けはされており、青春を謳歌しているであろう一軍、一軍に入れないまでもそれに近づこうとする二軍、その下の三軍、さらにその下とヒエラルキーが目に見える。漫画の世界だけと思っていたけど、教室の端でカードゲームやらスマホゲームやらをしている男子たちもいた。よく見るとあれモンハンだよね!私もやりたいなーとか考えるけど、たぶんあっちからしたら迷惑極まりないだろう。……でもこっそりとなら別にいいよね。  私は適当に明るく振舞っていたら、一軍であろう場所に押し込まれていた。さっきのケーキを食べに行こうといっていた女子たちも一軍ということになる。スカート丈の短さがカーストに比例してる感じなんですけど。ちょっと風が吹けば見えちゃうよ?でもまあ、おしゃれのためなら仕方ない。だって女の子だもん!まあ、私は恥ずかしいのでそこまで短くはしないんですけどね。
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